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「世界のカバン博物館(エース株式会社)」をご存じですか? <企業博物館の新たなチャレンジ> -前編-
台東区駒形に「世界のカバン博物館」という、世界でも珍しい博物館があるのをご存知でしょうか? エース株式会社が1975年に立ち上げた企業博物館で、創業者である新川柳作氏が、カバンを通じて世界の風土や歴史を紹介する施設を作りたいという思いから開設されました。そして2010年の創業70周年の節目の年に、「世界のカバン館」から「世界のカバン博物館」へと大幅にリニューアルしています。
そしてこの4月から新たに館長に就任されたのが、マーケティング本部マーケティング部次長でもある難波敏史さん。エース株式会社の広報パーソンとして手腕を発揮され、尚且つ出身地である北九州市の観光大使としても活躍されています。
展示内容などをgoogleのストリートビューと連動させ、館内の音声ガイド用アプリを導入するなど、若い世代にも気軽に見てもらえるような取り組みもユニーク。
今回は「世界のカバン博物館」館長の難波敏史さんにお話を伺いました。緊急事態宣言が発出されたため、取材はオンラインで実施させていただきました。
1 世界でも珍しい「カバン」に特化した博物館
今日はよろしくお願いします。今年の4月から「世界のカバン博物館」の館長に就任されたのこと。そもそもこの博物館ができたスタートはどんな背景だったのか、お聞かせ頂けますか?
難波さん: きっかけは、エース株式会社の創業者である新川柳作が、1958年に欧州を視察旅行で訪れたとき、ドイツ・オッフェンバッハ市の「皮革博物館」を見学する機会を得たそうです。そこで展示されている皮革製品の中で、カバンは10点程度しか紹介されていなかったので、新川は物足りない思いを抱きながら帰国し、その気持ちをずっと温めてきました。
「世界のカバンを集め、もっと多くの方に各国の文化や風俗を知っていただこう」と言う強い思いのもとで、新川が高い技術をもった職人たちの製品や、世界的にも珍しい製品を、約20年ものあいだ精力的に収集し続けました。そして1975年に、当時としては珍しい企業博物館として『世界のカバン館』を設立しました。2010年には創業70周年の節目として、『世界のカバン博物館』として大幅リニューアルもいたしました。
※日本博物館協会にも登録されています
今までされてきたお仕事を踏まえて、難波さんがこの博物館で取り組みたいと思っていることはありますか?
難波さん: 私はマーケティング部での仕事が長いのですが、この4月から館長を兼任させていただくことになりました。創業者の想いが詰まった博物館の館長業務は、大変な重責であると感じており、カバンの歴史やものづくりの知識などを、改めて学び直しております。
またマーケターとしての経験を生かし、出身地である北九州市の観光大使や、福岡を盛り上げるためのyoutuberなどもさせて頂いております。 アカデミックな視点を主軸として、残すべきことは残し変えるところは変えるという「不易流行」の精神で、新しい挑戦を続けていきたいと思います。
これからは携わってきたプロモーションの視点をもっと打ち出して、「世界のカバン博物館」をとらえ直す必要があると感じています。
2「東京のブルックリン」と併せた街あるきコースに
なるほど。敷居が高いと感じられていた博物館を、もっと幅広く知ってもらうことは、マーケティング視点ならではの発想ですね。
難波さん: はい。実は全国の企業博物館のシンポジウムなどに足を運びますが、そこで耳にするのは、どう地域とつながり“調べ学習”などに活用してもらうかが、各施設も課題となっています。来館頂くためには、エンターテインメント性を高め、来て・見て楽しいと思ってもらえるような展示を工夫する必要があります。
展示物で人気が高いのは、クロコダイルを12匹使って製造した世界に三個しかないキャビントランクや、著名なアスリート達が使用していたバッグなど。特にファンの方にとってはたまらないようですよ。
また、カバン博物館内では東京藝術大学や服飾専門学校などと組んで、生徒たちの作品を展示する場所としても企画展示エリアを貸し出しています。いつ来ても新鮮なものが見られるよう、展示内容も定期的に変更しています。
それは面白い試みですね。最近ではこの蔵前や浅草橋界隈が「東京のブルックリン」と称され、クリエイターのアトリエやおしゃれなカフェがオープンするなど、話題になっています。そういった若い世代の方々の来館はいかがですか?
難波さん: TV取材などを受ける機会が多くありますが、「街歩き」をテーマにした番組などで取り上げて頂くこともあります。ちょうどこの博物館が、浅草寺の雷門から蔵前への散歩コースに入っているので、若いカップルの方などが入口のディスプレイを見て、ふらりと入館頂くことも少なくありません。また服飾関係の方も興味を持っていただいています。
加えて、TV番組を見られたアクティブシニアの方々のご来館も目立ちます。気に入ってくださった方は、その後ご友人や家族を連れてきてくれました。
一度見たから終わりではなく、来館者に何度も足を運んで頂ける“リピーター”になっていただく必要があると考えています。
3 生徒たちの生きた学習に活用
さきほどの「調べ学習」として、小中学校の生徒たちに来ていただくためには、何か具体的に働きかけなどもされたのでしょうか
難波さん: PRを担当している時分から、居住地である台東区の小中学校へ訪問もしました。社会科見学会などで来館いただくことで、小さい時からカバンについての認知度を高めていただき、「地元にこんな企業があるのか」という意識づけに繋がることを期待しています。
カバンはたくさんのパーツから出来ていることや、歴史と共に形状も変化してきたということを知ってもらえるだけでも、将来のカバン産業の振興にもつながります。
弊社としては、「生業にしているカバンを通じて、なにか世の中に恩返をしたい」という、創業者の強い想いを具現化させたものがこの博物館になります。CSRの一環として実施している以上、もっと世の中の人にカバン産業やカバンに対する文化や歴史、風土を知って頂き、ひいてはエースのファンになってもらえればと考えています。
確かに、こちらは世界約50カ国から収集された、希少性の高いコレクションを一堂に見られる貴重な博物館ですね。カバンの歴史は、産業の発展や「移動手段」の変化と共に進化してきたということが詳しくわかって、大変興味深いです。
難波さん: そうなんですよね。ただカバンに関する文献は、世界にあまり実在していないというのが現状です。これには私も驚きました。
だからこそ、暮らしの中で使われるカバン1つにさえ、それぞれの国の独自の文化や風俗、発展の歴史があります。この博物館では、リアルな製品を通して伝えていける、世界的にも珍しい施設だと自負しています。私自身も今後は、もっと学び続けないといけないと思っております。
これらのカバンを通して、大昔からの歴史や人間の暮らしとの深い関わりを知り、多くの方々にカバンの魅力を身近に感じていただけると嬉しく思います。
以上、「世界のカバン博物館」の館長・難波敏史さんにお話しいただきました。インタビューの前編は以上です。後編は、博物館の魅力について語っていただきます。お楽しみに。