Bag

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革の郷・浅草で創業100周年を迎える
ファッションレザーのイノベーター
(富田興業株式会社) <サスティナブルとデザインの共存を目指して> -前編-

袋物参考館 PRINCESS GALLERY(株式会社プリンセストラヤ)-世界のバッグ・袋物の歴史を伝える企業ミュージアム-<後編>

前回までは歴史的な革バッグのアーカイブを持つ、企業ミュージアムをご紹介させて頂きました。
今回は2回連続で、バッグを作る時には不可欠ともいえる革素材そのものの輸入・開発・卸売りを手掛けてきた「富田興業株式会社」を取り上げます。実は2年後の2023年には創業100周年を迎えるという、業界でも歴史のある企業です。

最近では、食の副産物である植物由来の副産物(ポマース)を再活用する、サスティナブルな「LEZZA BOTANICA(レッザボタニカ)」プロジェクトが、2020年度グッドデザイン賞を受賞しました。時代に先駆けたものづくりとして、大変話題となっています。
今回は富田興業営業部部長の森田正明さんに、長年皮革と向き合い続けてきた企業の歴史を振り返っていただきました。

富田興業株式会社の商品部部長 森田正明さん

富田興業株式会社の商品部部長 森田正明さん

グッドデザイン賞を取った「レッザボタニカ」の皮革

グッドデザイン賞を取った「レッザボタニカ」の皮革

左:富田興業株式会社の商品部部長 森田正明さん
右:グッドデザイン賞を取った「レッザボタニカ」の皮革

1 靴に加えバッグ・小物・ライフスタイル全般へ。
ライセンスからファクトリーブランドへ

今日はよろしくお願いします。富田興業さんのショールームからは隅田川やスカイツリーも見えて、とても気持ちの良い場所にありますね。周りには革問屋さんやメーカーさんも集まっていると伺っています。

森田さん: こちらこそ、今日はよろしくお願い申し上げます。そうなんです、ちょうど浅草駅から逆三角形を描いたこの界隈は「奥浅草」とも呼ばれていて、革卸をはじめとして靴メーカー、パーツ卸業などが数多く集まっています。

私たちも元は、靴に使われる革を多く扱っていましたが、20年ほど前からバッグや革小物の比率が増えてきました。

靴用とバッグ用と革の違いがあるのですね、興味深いです。

森田さん: はい。実は靴用に使う革とかばん用に使う革は、似ているようで少し異なります。靴は最終的に底付けするときに力を入れて“吊りこむ”ため、「つり込んだ時に美しい表情になる革」が好まれます。逆に、バッグは素材の風合いがそのまま製品になるのでタッチ感や柔らかさ、経年変化するなど、革そのものの質感を味わうものが支持されます。私たちも靴向けの素材から少しずつ、カバン向けの革の取り扱いが増えていきました。

ショールーム入口のアート作品

ショールーム入口のアート作品

よく見るとお皿に乗ったフードが、皮革で立体的に製作されている

よく見るとお皿に乗ったフードが、
皮革で立体的に製作されている

ショールームの喫煙室の壁に貼られた、ウォールレザーの作品

ショールームの喫煙室の壁に貼られた、ウォールレザーの作品

ショールーム内部。個展が開催される際は、壁面いっぱいに革が陳列される

ショールーム内部。個展が開催される際は、
壁面いっぱいに革が陳列される

左上:ショールーム入口のアート作品
右上:よく見るとお皿に乗ったフードが、皮革で立体的に製作されている
左下:ショールームの喫煙室の壁に貼られた、ウォールレザーの作品
右下:ショールーム内部。個展が開催される際は、壁面いっぱいに革が陳列される

そうだったんですね。ちょうど1990年代はカバン業界では、「ライセンスブランド」のハンドバッグが全盛の頃でした。大きめなブランドロゴが付属し、かっちりしたエレガントなデザインが多かったので、色鮮やかでシワの出にくいレザーがよく動いたと記憶しています。懐かしいですね!ライセンスブランドでは、水シボや型押しといったレザーの加工が多かったように思います。

森田さん: はい。ただ肌感覚としてここ10年くらいは、バッグから革小物の比率が増えていると感じます。以前に比べて財布の単価は上がっていて、金運アップなどを期待する方がこまめに買い替えているようです。また財布を製造する際は、意外と革の要尺が必要なんですよ。

面白い傾向ですね。現在の富田興業さんで扱われている革は、国産と海外産とはどのくらいの比率なのでしょうか。

森田さん: 今取り扱っている主力の革は、国内生産、特に姫路市やたつの市のものが多いです。3割ほどが輸入の皮革です。下地となる原皮は、牛については以前は海外、特に北米産が多く使われていましたが、最近は国内産の比率が増えてきています。豚は100%国内産ですが、山羊や羊はほとんどが海外からの輸入です。

革づくりに於いては、直接タンナーさんにマーケットのニーズなどを伝えながら革を作っていきます。時には新しく開発された加工法を提案してもらい、お互いにアイデアを出し合って新作を作ることも多いですね。

お茶やワインの搾りかすを鞣しや染色に使用している

お茶やワインの搾りかすを鞣しや染色に使用している

「ドライタンレザー」と呼ばれる、鞣しの際に水を使わないサスティナブルなレザーを提案

「ドライタンレザー」と呼ばれる、鞣しの際に水を使わない
サスティナブルなレザーを提案

左:お茶やワインの搾りかすを鞣しや染色に使用している
右:「ドライタンレザー」と呼ばれる、鞣しの際に水を使わないサスティナブルなレザーを提案

異業種への取り組みとサスティナブルへの意識について

なるほど、そうなんですね。またバッグや革小物などの服飾雑貨に限らず、最近では業界を越えて革を提案されていると伺いました。

森田さん: はい。実は、ある大手コーヒーチェーン店のインテリアに、弊社の素材が採用されました。インテリアで「革のある暮らし」を体験してもらえないか試作を繰り返して来たので、使われると聞いてとても嬉しかったです。靴やバッグだけにとどまらず、幅広く異業種との協業ができないか常に考えています。

異業種の試みは本当に早かったと伺っています。他にも、国産のピッグレザーがあの超有名メゾンに採用されたというお話も驚きました。

森田さん: そうですね、あれは2010年のことでした。弊社で扱っていたピッグレザーが誰もが知るイタリアの有名メゾンに採用されました。採用されたのは「JANPIN」という商品名の「鞣しや染色に一切金属を使わないクロムフリーのピッグスエード」です。当時ヨーロッパでは環境問題が話題になっており、クロムフリー素材が注目されはじめた時期だったと記憶しています。まだその頃はイタリアでもクロムフリー素材は少なく、特に「JANPIN」のようなソフトな風合いのレザーは珍しかったようで、当時はたくさんのメゾンブランドから問い合わせを頂きました。

食品由来の搾りかすやお茶の葉などが鞣しと染色の原料に

食品由来の搾りかすやお茶の葉などが鞣しと染色の原料に

レッザボタニカのビジュアル

ショールームの喫煙室の壁に貼られた、ウォールレザーの作品

左:食品由来の搾りかすやお茶の葉などが鞣しと染色の原料に
右:レッザボタニカのビジュアル

そうだったのですね。日本のピッグレザーにとって大きなニュースとして記憶しています。日本の革作りの技術は世界から注目されていたんですね。

森田さん: たつの市のベテランのタンナーの方に聞きましたが、実は60年くらい前の日本は皮革の輸出大国だったそうです。特にガーメントレザーと呼ばれるソフトでしなやかな質感の革は、当時のイタリアではなかなか出せなかったのだとか。

その後、日本経済全体が右肩上りになるにつれて国民の所得も上がり、そうするとおのずと生産コストも上がってきました。徐々に韓国や中国など、人件費の低い近隣諸国に製造が移りました。加えて為替の問題なども発生し、一気に国内の皮革メーカーが厳しくなったと聞いています。

日本はかつて皮革の輸出大国だったというお話しは、初耳だったので驚きました。浅草のこの界隈にも数多くのタンナーが存在していたのも頷けますね。現在市場では、サスティナビリティの意識が高まる中で「エコフレンドリー」な商品開発が目立ってきました。著名メゾンも皮革や毛皮を使わないとか、「ヴィーガンレザー」などの呼び方もあるようですが、そういった現状についてどう思われますか?

森田さん: もともと“革は食肉の副産物”である、というのは皆さまもよくご存じかと思います。

確かに環境問題やアニマルフリーの観点から皮革を使わないブランドが増えてきているように感じます。「革は食肉の副産物」ということを私たちは積極的に発信するようにしてきましたが、まだまだ世の中の認知度は低く「レザーのために動物を殺している」と勘違いしている方も多いと聞きます。また、畜産についても色々な意見があるようですので今後は肉の消費が減ってくるということも考えられますが、いずれにせよお肉を食べれば「皮」は副産物として必ず生じてきます。この副産物である「皮」を大切な資源として活用していくことが、私たち皮革業界が担うべき社会的役割であり、人類が石器時代から行ってきた最も古いサスティナブルな行動のひとつだと考えています。

「ヴィーガンレザー」については、私は「動物由来の成分を使わない人工皮革」と認識していますが、本当に環境に配慮された素材も出てきています。中には「従来の合成皮革」の呼び方を変えただけのようなものもあるように感じます。また、どのくらいの年数で使用可能なのか?というようなことを考えると、まだ流通して間もない素材なので本当の意味でサスティナブルなのか?という検証はこれから必要になってくるのかと思います。

ただ、先ほど申し上げたとおり「今後 肉の消費量が減っていく」ということになれば、私たち皮革業界の企業も、ヴィーガンレザーを扱っていくことも視野に入れていく必要はあると考えています。

雨に強いウォータープルーフレザーでできた小物たち

雨に強いウォータープルーフレザーでできた小物たち

「革は食肉の副産物である」という概念も、まだ完全に認知されているとは言い難いかもしれません。サスティナビリティへの考え方は、人によってまだ偏りがありそうですね。また、最近話題になっている革があるとお聞きしました。

森田さん: はい、私たちが未来に向けて出来ることを考えた時に、革製品として「100年間使えるレザー」をコンセプトにした「100年レザー」を開発しました。

商品を発表したのは2016年になりますが「100年後に残せる仕事」を考えることで「サスティナブルなもの作り」について考えるきっかになりました。

「100年後の富田興業のスタッフ」が「こちらの100年レザーは2016年に開発された素材で100年間販売を続けている商品になります」と説明していたらとても嬉しいことなので、100年間 継続的に生産・販売が出来るようなもの作りを守っていきたいと考えています。

私たちは実際に100年後のことは確認出来ないので、未来のスタッフに想いをつないでもらうえるよう頑張っていきたいと思っています。

100年レザーで仕立てたトートバッグ

100年レザーで仕立てたトートバッグ

浅草エリアの企業と、一線で活躍するデザイナーがコラボレートし、革のデザイン・プロダクトを開発する「TOKYO L(トーキョーエル)」プロジェクトの製品

浅草エリアの企業と、一線で活躍するデザイナーがコラボレートし、革のデザイン・プロダクトを開発する「TOKYO L(トーキョーエル)」プロジェクトの製品

浅草エリアの企業と、一線で活躍するデザイナーがコラボレートし、革のデザイン・プロダクトを開発する「TOKYO L(トーキョーエル)」プロジェクトの製品

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浅草エリアの企業と、一線で活躍するデザイナーがコラボレートし、革のデザイン・プロダクトを開発する「TOKYO L(トーキョーエル)」プロジェクトの製品

これで一回目のインタビューは以上です。次回に続きます。

参考サイト

富田興業株式会社
東京都台東区今戸1-3-12トミタビル

https://www.tomita.co.jp/