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革の郷・浅草で創業100周年を迎える
ファッションレザーのイノベーター
(富田興業株式会社) <サスティナブルとデザインの共存を目指して> -後編-

袋物参考館 PRINCESS GALLERY(株式会社プリンセストラヤ)-世界のバッグ・袋物の歴史を伝える企業ミュージアム-<後編>

前回より、創業100周年を迎えようとしている富田興業株式会社の、商品部部長の森田正明さんにインタビューさせて頂いております。今回は後編です。

前編でも触れましたが、ワインの搾りかすやお茶殻といった食物の副産物(ポマース)を再活用する、「LEZZA BOTANICA(レッザボタニカ)」のプロジェクトについて伺ってみたいと思います。2020年度グッドデザイン賞を受賞し、その後も日本各地に存在するポマースを探しに、新しい革づくりの旅に出かけられています。

1 植物由来の副産物を再活用する皮革「レッザボタニカ」

いよいよ「レッザボタニカ」についてお伺いしたいと思いますが、どのようなきっかけでスタートされたのでしょうか。

森田さん: 前回もお話しさせて頂きましたサスティナブルの考え方は、弊社でもどのように展開していくかはずっと課題としてありました。
今から5年以上前に、弊社社長の富田が飲料メーカーの方にお話を伺う機会がありました。「製造で出るお茶殻などはどうされているのですか?」と聞くと、「お金を払って廃棄している」とのことでした。

お茶といえばカテキンやポリフェノールが豊富に含まれていますが、皮革をなめす際に使う鞣し剤も、植物タンニンという「渋」が原料です。これは何か通じるものがあるのでは…と直感し、そこから産業廃棄物として処分されることの多い「ポマース(搾りかす)」に着目していきます。

ポリフェノールつながりとは面白いですね。確かに「タンニンなめし」の皮革は、ミモザなどの渋から出来ていますから、成分として繋がります。しかし5年前とは…。やはり長い準備期間が必要だったのですね。

森田さん: そうなんです。お茶殻から発想して、食品系のポマースが植物鞣しや染色に活用できるのではと次々アイデアが沸いてきました。まず、ポリフェノール豊富なワインでやってみようと進めていくと、一緒に取り組んでくれる工場がなかなか見つからず、実現化まではまだまだ遠い道のりでした。

最初、懇意にしていた姫路のタンナーさんと取り組みをスタートさせますが、今まで誰もやったことがないので、1年間あまり具現化できずプロジェクトも頓挫しかけます。それでもあきらめずにパートナーを探し求めたところ、今度は関東近県のタンナーさんが、興味を持って下さいました。

お茶やワインの搾りかすを鞣しや染色に使用している

お茶やワインの搾りかすを鞣しや染色に使用している

グッドデザイン賞を取った「レッザボタニカ」の皮革

グッドデザイン賞を取った「レッザボタニカ」の皮革

左:お茶やワインの搾りかすを鞣しや染色に使用している
右:グッドデザイン賞を取った「レッザボタニカ」の皮革

新しい革づくりにチャレンジしてくれるパートナーが見つかって良かったですね。

森田さん: 革をなめす作業というのは、緻密な化学実験そのものです。まずはビーカーテストから始め、どのくらいの分量を入れると反応するのか、といった細かな実験データを繰り返し積み重ねました。ゆうに2年くらいはかかったと思います。その間、諦めることなく、粘り強く向き合ってくださいましたね。
そしてようやく2020年6月に、植物由来の副産物を再活用する皮革「レッザボタニカ」を立ち上げて、様々な企業と協業する「レッザボタニカ プロジェクト」を本格的にスタートさせました。

各メディアなどにも掲載され、大変話題になったと記憶しています。国内でこういったストーリーのある本格レザーが生まれるのも、とても珍しいのではないかと思います。

森田さん: 嬉しいお言葉です。ワインのポマースは長野県のワイナリーに提供していただき、なめし材と染色の両方での利用ができました。リリースした「レッザボタニカ ビーノ」は、力強くしなやかな革質で、深みのあるワイン色に染まりました。加えて消臭・抗菌効果まで叶ったのには驚きました。

ワインとお茶とくると、次はどんなポマースの可能性がありそうでしょうか。

森田さん: 第3弾は、コーヒーの焙煎場によるコーヒーの豆カスでの取り組みを進めています。墨田区にある珈琲店と協業して、現在開発中です。

珈琲レザーも楽しみです。今まで想像もしていなかった意外な材料が、革なめしの原料になるとは本当に面白いですね。

森田さん: 全国にはまだ様々なポマースがあり、例えば料理店の廃油やレモンの皮、渋柿の皮など、それぞれに個性のある質感や色みが存在します。日本全国のポマースに出会う旅は、これからも続けて参ります。

食品由来の搾りかすやお茶の葉などが鞣しと染色の原料に

食品由来の搾りかすやお茶の葉などが鞣しと染色の原料に

レッザボタニカのビジュアル

レッザボタニカのビジュアル

左:食品由来の搾りかすやお茶の葉などが鞣しと染色の原料に
右:レッザボタニカのビジュアル

産学連携でのD級レザー利活用プロジェクトも

楽しみにしています。また、グッドデザイン賞を取られた経緯はどうだったのでしょうか。

森田さん: グッドデザイン賞では、産業廃棄物の利活用という側面からエントリーをしました。サスティナブルな社会を目指すために、食の副産物である皮革と植物由来の副産物(ポマース)を組み合わせることで新しい製品を生み出す、という取り組みが皆さんに評価されたと思います。

サスティナブルを目指すには、当然ビジネスとして成立することが肝要となります。今回のワインポマースを使った染色では、淡いピンクから、リッチな濃い赤まで、クオリティーの高い色味が実現できたので、作り手の方々が製品化するにあたり、ユーザーに新たな皮革の価値を伝えていただけると自負しています。

なるほど。今後はこの革で作ったバッグや革小物が欲しい、という声も聞けるのではないかと思います。

森田さん: 早くそうなると嬉しいですね。早速展示会では、著名なファクトリーブランドやアパレルブランドの方々に採用いただきました。サスティナブルな機運が高まっている時でしたので、タイミングもぴったりだったと思います。

また、レッザボタニカのプロジェクトで足がかりができたので、今度はタンナーの積年の課題でもある「D級レザー」を利活用するプロジェクトを産学連携で立ち上げました。

8月から始まった「富田興業株式会社と国際ファッション専門職大学」とのレッザレジリエンスプロジェクト

8月から始まった「富田興業株式会社と国際ファッション専門職大学」とのレッザレジリエンスプロジェクト

D級レザー問題を図式化したもの

D級レザー問題を図式化したもの

左:8月から始まった「富田興業株式会社と国際ファッション専門職大学」との
レッザレジリエンスプロジェクト
右:D級レザー問題を図式化したもの

このコロナ下での新プロジェクトの立上げとは、とてもアクティブですね。D級レザーとはどういった素材なのでしょう。

森田さん: 「レッザレジリエンス」というプロジェクトですが、レザーには品質に応じて等級分けがあり、A、B、C級までは市場に出せるけれど、そのままでは流通できないD級レザーが存在します。これが長らく倉庫に眠ったまま活用されておりません。SDGs的観点からも、この問題は業界内で見過ごす訳にはいかない課題でした。

協力を頂いたのは、都内にある「国際ファッション専門職大学」の学生です。弊社の社員とで合同で構成した4チームが、7ヶ月間かけてプレゼン資料を作り、プロトタイプの作製までを手掛けるというもの。

彼らが発案したプロセスをまとめた資料と、実際製作した商品を持ち寄り、富田興業のショールームでプレゼン会も開催しました。それぞれのチームがユニークなアイデアを披露して、とても興味深いアイデアもたくさん出ていました。審査員の方も呼んで、忌憚のない意見も聞けたので、彼らにもリアルな学びの場になったのではないかと思います。

このプロジェクトに関して解説をする富田興業(株)の富田社長

このプロジェクトに関して解説をする富田興業(株)の富田社長

会場の全体光景。後ろには発表を待つ学生が

会場の全体光景。後ろには発表を待つ学生が

左:このプロジェクトに関して解説をする富田興業(株)の富田社長
右:会場の全体光景。後ろには発表を待つ学生が

D級レザーの活用法を、外部の若い人たちからアイデアをもらうとは斬新な試みですね。よく町おこしも「よそ者・若者」が変えると言われますが、全く先入観を持たない彼らが、何か新しい風を吹かせてくれそうですね。

森田さん: コロナがきっかけになって、自分たちのビジネスの在り方や流通の仕組みなど、すべてを見直さざるを得なくなりました。未だ売上が元に戻ったとは言い難いですが、新しいことを始めるきっかけとして必要なプロセスだったと思います。

実は今までの皮革卸業だけでなく、一般ユーザーに向けた革の小売りも始めました。個人の作家の方などが出店する「creema」のサイトで、革を一枚から販売しています。作家の方々は意外にも、高品質な革を購入される方が少なくありません。顧客をつかんでいるブランドが多いので、小規模であってもお客様の顔が見えるものづくりをされているようです。その点が学びになった大きな点ですね。

革を藍染めして財布を製作するアイデアを出したチーム

革を藍染めして財布を製作するアイデアを出したチーム

革を好きなように貼り付けられるステッカーとして提案するアイデアを出したチーム

革を好きなように貼り付けられるステッカーとして提案するアイデアを出したチーム

花束のラッピングペーパーの代わりに、革を使うことを提案したチーム

花束のラッピングペーパーの代わりに、
革を使うことを提案したチーム

D級レザーの虫食い穴を活用して、革のライトスタンドを提案したチーム

D級レザーの虫食い穴を活用して、
革のライトスタンドを提案したチーム

左上:革を藍染めして財布を製作するアイデアを出したチーム
右上:革を好きなように貼り付けられるステッカーとして提案するアイデアを出したチーム

左下:花束のラッピングペーパーの代わりに、革を使うことを提案したチーム
右下:D級レザーの虫食い穴を活用して、革のライトスタンドを提案したチーム

なるほど、面白いですね。最後に富田興業さんの今後の抱負をお願いします。

森田さん: 「レッザボタニカ」のプロジェクトが、近年のSDGsの流れと合致したのは幸運でした。自分たちが取り組み始めたのは5年以上も前だったので、市場がここまで盛り上がるとは想像はしていなかったのです。

試行錯誤していくと今度は突然コロナ禍になり、自由に移動もできない日々でしたが、協業いただける企業との地道な取り組みが実を結び、結果的に素晴らしい革が生まれました。このプロジェクトはずっと続く旅なので、今後もポマースとの出会いを楽しみに、来シーズンに向けて革作りを行っていきます。ぜひ楽しみにされていてください。

参加者全員での記念撮影

参加者全員での記念撮影

【インタビューを終えて】
文明が開化して以来、この浅草は「革の街」として発展してきました。富田興業の富田常一社長は更に、この街のファンを増やしてブランド力を高める試みとして「浅草エーラウンド」という、革の街を回遊するものづくりの祭典を開催しています。
未来に向けたイノベーティブな試みは、今も続いています。

この度はインタビューありがとうございました。次のシリーズを期待しております。

参考サイト

富田興業株式会社
東京都台東区今戸1-3-12トミタビル

https://www.tomita.co.jp/

creema サイト

https://www.creema.jp/c/tomita