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リアルな現場と直結した、プロの革バッグ職人を育成する学校 <バッグクラフトマスタースクール> -前編-

リアルな現場と直結した、プロの革バッグ職人を育成する学校<バッグクラフトマスタースクール> -前編-

革かばんのインタビューの旅は、いよいよ佳境に。

今回は2回連続で、「バッグクラフトマスタースクール」というバッグづくりの学校にお伺いしました。隅田川のほとり、墨田区本所に学校はあります。

こちらは創業2003年の老舗スクールで、革のバッグづくりを基礎編から応用編まで幅広く学ぶことができます。卒業生の中には、現在独立してブランドを立ち上げていたり、ポップアップイベントを開催して多くのファンを持つ方もいます。バッグメーカーのご子息が、本格的なバッグ作りを学びに来るという事例もあるそうです。

職人の高齢化が深刻化するなかで、この学校が輩出してきた人材は、着実にこの業界を下支えしていると言っても過言ではありません。

学校の立ち上げから参画し、現在は校長を務められている大月照雄さん、オフィスマネージャーの冨谷さと子さんにお話を伺いました。

1 スクールのカリキュラムの特徴

今日はよろしくお願いいたします。こちらの建物は3階にスクールがあって、2階がシェアオフィスになっているのですね。またレトロな雰囲気も素敵です。

冨谷さん: こちらこそ、よろしくお願いいたします。そうなんです、古いビルを改修して学校にリノベーションしましたが、学校だけでなく卒業生や一般の方に向けたシェアオフィスを設けました。施設内の各種ミシンや革漉き機、クリッカーなどが利用できます。ここをコミュニケーションや情報交換の場としても活用してほしいと考えたからです。

レトロなビルの内装を活かして、他にはない学校のイメージになっているのが印象的ですね。いまは次の4月度生の募集がスタートしているとお聞きしましたが、最近はどんな生徒さんが入学されているのでしょうか。

大月先生: 現代は昔と違って、自分で好きに製作してHPなどにアップすれば、素人さんであってもすぐ商売ができます。ただそんな中でも、きちんとした作り方を1から教わりたいという方や、プロ目線でのバッグづくりを身に付けたいという方が入学されています。

社会人の方も多いため、土曜日コースも新たに設けました。副業としてものづくりをしたいという方も増えています。
また、親がバッグメーカーを営んでいるが、外注してしまって作りが分からないという2代目のご子息が、ものづくりを学ぶ場所として入学するというケースもあります。長く学校をやってきましたが、業界の方に認知されてきたというのはとても喜ばしいことですね。

バッグクラフトマスタースクール校長の大月照雄さん

バッグクラフトマスタースクール校長の大月照雄さん

スクールの入るビルの外観

スクールの入るビルの外観

左:バッグクラフトマスタースクール校長の大月照雄さん
右:スクールの入るビルの外観

それは興味深いお話しですね。こちらのスクールは基本的にどのようなカリキュラムになっているのでしょうか。

冨谷さん: 最初は「基礎コース」からスタートして、「中級コース」「上級コース」と3段階のステップがあります。1クラス10名という少数レッスンなので、分からない点などは講師から詳しく教えてもらえます。

「基礎コース」では型紙有のミシン縫いで、4本のバッグを製作していきます。ミシンの糸のかけ方から革漉きの仕方、包丁の使い方や研ぎ方、全てデモンストレーション中心で進めていくので、初心者の方でも安心してバッグ作りを楽しんで頂けると思います。

次の「中級コース」では型紙の起こし方や、芯材の使い方を学びます。

最終的な「上級コース」では、図面の描き方から仕様書や見積もり作成など、バッグのビジネスにおいて必要な技術や知識も学びます。ここで製作した作品は合同展に出展し、バイヤーとの商談が成立すれば商品化の道も開かれています。

rooms展示会でのブースでは、卒業生が出展されていたのを拝見しました。みなさんの個性が出ていて、とても印象的だったように思います。卒業生の方の中には、「ジャパンレザークリエイターズ」の方々のように、積極的にPOPUPイベントを開催している方もいらっしゃいますね。

大月先生: 私たちはバッグ作りを教えてはいますが、一番学びが多いのは、市場に出てバイヤーさからフィードバッグをもらうことではないかと思います。いいものが作れた、そしてそれを次にどう売るか、を考えることも重要なことです。

ぜひ卒業生たちには、色々な形で積極的に社会に出て、学びを深めてほしいと思いますし、もし分からないことがあればいつでも戻ってきて、私たちに聞いてほしいと話しています。

授業風景。少人数制できめ細かな授業を行う

授業風景。少人数制できめ細かな授業を行う

バッグを学びにくる男性の生徒さんも少なくない

バッグを学びにくる男性の生徒さんも少なくない

左:授業風景。少人数制できめ細かな授業を行う
右:バッグを学びにくる男性の生徒さんも少なくない

大月校長が歩んできた職人としての道のり

そういった、いつでも相談できる場所があるというのも、この学校の大きな特徴だと思います。ところで大月先生は、どのようなキャリアだったのでしょうか。

大月先生: 私自身は15歳の時に鞄職人の内弟子となり、下積みを経てから独立しました。その後はバッグメーカーに20年勤務して生産、営業、後輩の指導に当たってきました。

サンプル職人をしていた時に出会ったのが、デザイナーの三原英詳氏です。彼の中では、デザイナーが作りたいバッグを具現化できる腕のいい職人が、やがて日本にはいなくなるという強い危機感を感じており、もちろん私も同じ想いでした。今私が持ちうる職人としての技術や知識を、後世に継承させることを目的としてこの「アトリエフォルマーレ」が生まれたのです。

生徒さんが使うミシン

生徒さんが使うミシン

なるほど、そういった背景だったのですね。聞くところによると昔の職人さんは、「技術は盗んで覚える、ミシンを使えるまでには3年の下積み」という世界だったと伺いました。「皮革技術認定・ハンドバッグ部門一級」をお持ちの大月先生から、直接教えて頂ける機会というのは、学生さんにとってはとても貴重な体験だと思います。

大月先生: 私の時代は確かに、職人独特の“目で見て盗むべし”という遠回りは当たり前でしたが、いまはそれでは人が定着しません。日本の職人技を廃れさせないためにも、確かな技術に加えて、わかりやすい教え方を心がけています。また美しく仕上げることだけでなく、職人としてはいかに「早く」仕上げるかという点も重要になります。

自分のデザインをパターンに落とせるようになって、描いたイメージ通りのものが作れるようになってほしい。そこから、バッグ職人としての可能性も一気に広がります。

学校にいる時はどんどん手を動かして、講師にもたくさん質問して、「習うより慣れろ」という気持ちで向かい合ってほしいと願っています。

大月校長の皮革技術認定証。一級を持っている方は業界内でも大変希少

大月校長の皮革技術認定証。一級を持っている方は業界内でも大変希少

授業風景。少人数制できめ細かな授業を行う

授業風景。少人数制できめ細かな授業を行う

左:大月校長の皮革技術認定証。一級を持っている方は業界内でも大変希少
右:授業風景。少人数制できめ細かな授業を行う

自由なものづくりが出来る場としての「スクール」という存在は、卒業生にとっても心の拠り所となる、貴重な存在なのではないかと思います。

これで前編のインタビューは以上です。後編に続きます。

参考サイト

バッグクラフトマスタースクール
 東京都墨田区本所1-1-8 3F

http://atelier-formare.com/