Bag
リアルな現場と直結した、プロの革バッグ職人を育成する学校 <バッグクラフト マスタースクール> -後編-
今回は「バッグクラフトマスタースクール」の大月校長のインタビュー、第二回目です。
オーナーの三原英詳さんと共に学校の立ち上げから参画し、現在は校長を務められている大月照雄さん。そして、オフィスマネージャーの冨谷さと子さんにお話を伺いしています。
1 革バッグの技術が基礎になる
前編では、こちらの学校の概要や、大月校長の経歴などをお尋ねしてきましたが、こちらの学校の特色を更に深堀りしてお伺いしたいと思います。こちらの学校は「革バッグ」づくりにこだわられていますが、それはなぜなんでしょうか。
大月校長: 革のバッグさえしっかり作ることができれば、キャンバスやナイロンなどの異素材へと応用できるようになるからです。もちろん素材それぞれに難しさはありますが、やはり革の知識があることは、きちんとしたバッグづくりには不可欠だと考えています。
革でバッグを作るにあたって、難しいポイントとはどんなところですか?
大月校長: 革には「革目(かわめ)」と呼ばれる、一定方向に伸びる性質があります。牛革を広げると、一枚革の背中から頭や足先に向かって、繊維が放射状に伸びています。その方向を考慮せずに型紙を取ると、耐久性に大きく差が出ます。
特に、カバンの上下の向きや、持ち手部分などの荷重がかかるパーツについては、この方向性を意識して裁断する必要があります。部位ごとにも伸びの良し悪しがあるため、革素材そのものの知識も重要になってきます。
綿やナイロン、合皮など、他の素材にはそういった配慮はあまり必要ないので、この「革目の見極め」が、革バッグならではの難しさであり楽しさだと思います。
革バッグが出来る人は、そこからの応用も効くということですね。
大月校長: そうですね。革と一言でいっても、牛革から羊、ヤギ、馬などで革の性質も変わりますし、型押しや箔加工をすればまた取り扱いが変化します。そういう意味では、なかなか自分の思い通りに行かないもどかしさはありますが、完成した時の喜びはひとしおです。まず頭だけで理解せず、手を動かしてどんどん作ってみようと話しています。
まさに、大月校長がおっしゃった「習うより慣れよ」ですね。
大月校長: 最近では、生徒たちの「手」を見ればわかります。この人は自分からコツをつかんでいるな、とか、もう少し努力が必要だなとか。職人の手は言葉よりも多くを語りますからね。
そんなに手は饒舌なのですね。
2期を越えて繋がり続ける卒業生たち
学校を卒業される方々の進路は、どういうお仕事が多いのですか?
大月校長: 十数年前のような、「何がなんでも自分のブランドを」という人は少なくなりました。ブランドよりも「自分の好きなものを思うように作りたい」というクラフト志向の方が多いように感じます。もちろん、メーカーに入ってバッグ職人として活躍している人も多いです。
また、ここを卒業して別のバッグのスクールに通う方や、自分でバッグ作りの先生になって教えているという方もいます。イタリアに渡って職人として働いている人、ショップを構えている人まで。本当に様々なキャリアを積んでいますよ。
なるほど。別の学校に行かれたり、教える人になるというのも面白い進路ですね。
大月校長: 私自身はとても良いと思っています。スクールによって教え方も全く違いますし、色々なやり方を知ることは良いことだと思います。また教える先生が増えるのも、業界にとって幅が広がることにもつながるので、どんどん増えていったら良いと思います。
いろいろな生徒さんを見られていて、「この人は伸びるな」と感じる方はどんな方だと思われますか?
大月校長: 人並みのことをやっていたらそれまで。伸びていく人は「貪欲さ」が備わっていると思いますね。マインドが強いというか。どうすればもっとキレイに仕上がるか、早くできるかを考えて、どんどん講師にも聞いてくる。
私たちはその受け皿として、「アトリエフォルマーレ」という場を提供していると思っています。
なるほど。そうなんですね。
大月校長: 私自身が、そんな技術を継承できるような学校をやりたいという想いが、ずっとありました。90年代には海外の工場で技術を教えてくれという話もたくさん頂きましたが、すべて断って日本国内にとどまり、国産のものづくりにこだわってきました。
本当に革が好きで、その革の特徴を生かした製品を作りたいという方がいたら、持っている知識はすべて伝え、背中を押したいと思っています。
またコロナになったことで、バッグにこだわらず、新たにインテリアやライフスタイルに関わるものを作る人が出てきてもいいと思っています。その時代に合わせて変化することは大切で、どんどん思い描いていることを形にしてほしいですね。
最近は、そういった新しいジャンルのアイテムも必要とされているので、卒業生には期待したいです。また、世代を越えて仲がいいのもアトリエフォルマーレさんの特徴ですよね。
冨谷さん: 卒業生たちは「大月先生いますか?」と時々来ていただいていますよ。ここに来ればみなさんと情報交換できますし、新しい技術も知ることができるので。一緒にPOPUPをしている方も少なくありません。
この学校の出身であることで、つながり続けられることは嬉しいですね。これからも期待しております。本日はありがとうございました。
これで後編のインタビューは以上です。
「バッグを作りたい」という思いを持った人がここに集い、新しい活動につながっている「バッグクラフトマスタースクール」。2階にはシェアオフィスがあり、卒業生たちが実際に仕事をしている後ろ姿を見ることもできるので、生徒にとって励みにもなります。
再来年で設立20周年。これからも「夢が実現できる場」として、この学校の存在感がますます増していくのではないでしょうか。