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エディター&MDコンサルタントに聞く、バッグブランド
<激動の平成史>(1)
クリエイター系ブランド&ファクトリーブランド

エディター&MDコンサルタントに聞く、バッグブランド<激動の平成史>(1) クリエイター系ブランド&ファクトリーブランド

1990年代後半以降、バッグ問屋、バッグメーカー各社が有名ブランドのライセンス生産からオリジナルブランドへとシフト。2000年前後はミレニアムとして新しいプロジェクトに挑戦するメーカー、ファクトリーが数多く登場しました。

同時期にファッション雑誌の創刊が相次ぐなか、ファッション誌に掲載され、人気ブランドへ、というビジネススタイルが確立。さらには2000年代前半、海外の編集者の私物からブレイクしたエディターズ(編集者)バッグがブームに。インポートブランドだけでなく、デザイン性に優れた個性的なバッグも注目を集め、ジャパンレザーの魅力を発信するバッグブランドが多彩なクリエーションを表現しました。

そんな大人世代には懐かしく、Z世代には新鮮な平成のバッグ史を、活躍中のバッグメディアのエディター、革製品MDコンサルタントが語る新シリーズを始動します。初回は、鞄・バッグ業界専門紙「Bagazine(バガジン)」編集長、北林芳武さんが登場。当時の取材写真とともにリアルな状況を振り返りました。

クリエイター系ブランド隆盛とその要因とは?

北林さんは、編集者になってどのくらいですか?

鞄・バッグ業界紙の編集という仕事に就いたのがおよそ20年前、2000年ごろ。ミレニアムの節目から、未知の分野である鞄・バッグ業界、皮革産業の世界に足を踏み入れ、手探りながらも色々な商品、素材、人物、企業、市場に接し、そこで見聞きし感じたことを業界紙というフィルターを通して発信してきました。

取材対象は主に業界関連の範囲ですが、異業種を含むファッション系の合同展示会もその一つです。当時は、大型会場での大規模合同展示会を筆頭に、同じジャンルやテイストのブランドを集積した中規模クラスのもの、数ブランドがサロン形式で開くような小規模のものまでさまざまな展示会が数多く開催され、そこにはたくさんのクリエイター系ブランドも参加していました。

業界企業においても自社オリジナルブランドの立ち上げが目立ってきた時期です。有名なブランドを持つ安心感だけでなく、自分が持って満足感を得られるものに価値を見出し、希少性を含め“自分だけ”のものを求める消費者意識の変化も、クリエイター系ブランド隆盛の大きな要因と言えるでしょう。

異彩を放つ個性と独自性が魅力!
クリエイター系ブランド

バッグ業界でいち早くクリエイター系ブランドに注目なさった北林さんが、彼らのものづくりに惹かれたきっかけは?

クリエイター系ブランドの魅力は、何と言っても「独自性」。独特な発想によるデザインや、容易に真似のできない技法による作り・仕様といった個性の強さに他なりません。合同展の取材では、そんな異彩を放つ個性に多々遭遇します。

話を聞くとそのほとんどが、表現への強いこだわりをもち、商品化するためたくさんの時間と手間をかけていていることが分かります。“神は細部に宿る”という言葉がありますが、そういった部分が人の心を魅きつける要素だと感じます。

2006年にファッションの合同展示会「rooms」で見た「ROSA RUGA」は衝撃でしたね。素材となる革の染色から加工を自ら行い、独学で習得した革小物製造技術によって作られた商品はまさに唯一無二であり、「ART OF LEATHER」のブランドコンセプトが示すように芸術的オブジェから、バッグ、財布小物・アクセサリーまで、一貫してブランドの世界観を表現していました。

「ROSA RUGA」(北林さん提供写真/2006年撮影)

「ROSA RUGA」(北林さん提供写真/
2006年撮影)

大手メーカーとは一線を画す独立系ブランド、クリエイター系ブランドの成功に欠かせないのはどんな要素でしょうか?

一方、クリエイター系ブランドの大きな課題はビジネスの継続性です。膨大な手間暇を掛けて作るため商品単価は高くなり販売先も限られます。今でこそECサイトはじめオンライン販売を活用すれば、少量生産高額販売でも成り立つかもしれませんが、ブランドの世界観やこだわりを保ちつつ量産体制に乗せ、その時々のマーケットニーズに応えながら商品提案していくことは非常に難しいと思います。

ミレニアムから展開している「SAN HIDEAKIMIHARA(サン ヒデアキミハラ)」や、革素材からオリジナルにこだわる「Coquette(コケット)」、「MOQUIP(モキップ)」、2010年に「ジャパンレザーアワード」のグランプリを受賞した「NAOTO SATOH(ナオト サトウ)」などは、そのバランスを取りながら継続的にブランド活動をされています。

「SAN HIDEAKIMIHARA」(北林さん提供写真/2003年撮影)

「SAN HIDEAKIMIHARA」
(北林さん提供写真/2003年撮影)

「Coquette」(北林さん提供写真/2006年撮影)

「Coquette」(北林さん提供写真/
2006年撮影)

左:「SAN HIDEAKIMIHARA」(北林さん提供写真/2003年撮影)
右:「Coquette」(北林さん提供写真/2006年撮影)

「NAOTOSATOH」(ジャパンレザーアワード事務局提供写真/2010年撮影)

「NAOTOSATOH」
(ジャパンレザーアワード事務局提供写真/
2010年撮影)

「MOQUIP」(北林さん提供写真/2019年撮影)

「MOQUIP」(北林さん提供写真/2019年撮影)

左:「NAOTOSATOH」(ジャパンレザーアワード事務局提供写真/2010年撮影)
右:「MOQUIP」(北林さん提供写真/2019年撮影)

大きなうねりとなった、ファクトリーブランド化の流れ

オリジナルデザインで展開するブランドでは、ファクトリーブランドも人気を集めていますが、その流れを教えてください。

企画デザインから製造、販売まで一貫して手掛けるSPA、いわゆるファクトリーブランドとして長年実績があるところでいえば、「IBIZA(イビザ)」「BEAUDESSIN(ボーデッサン)」「GANZO(ガンゾ)」「SOMÈS(ソメス)」などが挙げられます。

業界内企業を見ると、ほとんどが卸と製造とに業態が分かれていますが、国産ブランドとして25周年を超えた「master-piece(マスターピース)」では、2008年から大阪と豊岡に自社ファクトリーBASEを設立して継続的なものづくりの環境を整え、鞄卸の(株)イケテイでもグループ会社に製造会社を持って自社PBの生産を行うなど、業界大手でもオリジナルを中心にファクトリーブランド化の流れが増えてきました。

2000年ごろに取材した「Herz(ヘルツ)」もファクトリーブランドとしての歴史は長いですね。作り手が自分の作りたいバッグの型紙を選んで、裁断から縫製、仕上げまで全て一人で行い、出来上がったら「Herz」のショップに並べて販売する。ヌメ革をベースに手作りのぬくもりが感じられる商品にぴったりの販売スタイルだなと感じました。

現在では、全国的に直営店を展開しています。「Herz」の歴史はホームページでも紹介されていますので参考までに。また、弊紙のオンライン版「Bagazine bit」では、独自取材のニュースも発信していますので、併せてご覧ください。

参考サイト

「Herz」

https://www.herz-bag.jp

「Bagazine bit」

https://www.bagzn.com/