Bag
エディター&MDコンサルタントに聞く、バッグブランド
<激動の平成史>(3)
スマートフォン&キャッシュレス決済が切り拓くバッグの新時代
平成のバッグ史を活躍中のバッグメディアのエディター、革製品のMDコンサルタントが語るシリーズの第3回は、バッグを中心に幅広いファッション雑貨の最新トピックを発信するウェブメディア「@Random by B.A.G.Number」編集長 川﨑 智枝さんにインタビュー。
平成から令和への架け橋となった2010年代。スマートフォンの急速な普及とともに決済手段が大きく変化し、キャッシュレス化が進行。スマートフォンの機能が充実し、日常生活での持ち物もシンプルに。手ぶらで気軽に外出できるようになりました。
そんなライフスタイルや意識の移り変わりをたどりながら、バッグのニューノーマル、バッグの在り方を探ります。
キャッシュレス&ミニバッグ
大革命
小さめバッグが人気となった原因、きっかけを教えてください。
以前はオフィスワーカー用のバッグはA4ファイルが入るサイズ、財布は金運アップが期待できる長財布がスタンダードでした。2011年、東日本大震災後の「ノームコア(究極の普通)」「シンプルベーシック」ブームを経て、2015年あたりから徐々に「ミニバッグ」「アクセサリーバッグ」といったコンパクトなバッグがトレンドに浮上し、財布自体も小さめに。
背景には2つの要因があるように思われます。1つめはセキュリティの問題やペーパーレス化により、ビジネスパーソンたちがA4サイズの書類を持ち歩かなくなったこと。2つめは、「ミニマリズム」や「断捨離」ブームで「持ち物も厳選したい」というユーザーの気持ちとリンクしたのでは? パリやニューヨークのコレクションでもマイクロバッグ、アクセサリーバッグが数多く発表され、年々バリエーションが増えています。
ミニバッグに収納するのは、長財布は不向き。二つ折り、三つ折りへと財布のサイズ自体もシフトします。新たに「お財布ショルダー」と呼ばれる、斜め掛けショルダーとお財布がドッキングしたような新製品が空前のヒットに。ファッション誌でも、バッグではなくミニ財布やカードケース類の特集が組まれるなど、“コンパクト化”する革小物が人気を集めました。
キャッシュレス決済の浸透もその原因ですか?
クレジットカード、電子マネー、QRコードによるスマホ決済と、さまざまなキャッシュレス決済が登場しました。インバウンド対応や東京オリンピックへの準備など、官民挙げてキャッシュレス化を推し進めましたが、災害時に起きた停電により電子決済がストップしてしまう経験を経て、キャッシュレスのみの決済手段に不安も感じ、現金へのニーズが復調。その後は、「カード」「スマホ」「財布」「その他(キー、チャームなど)」を、ひとりひとりのライフスタイルや使い勝手にマッチする、自由な組合せ提案へ集約していきます。
コンパクト化からさらに、薄型のL字財布、札ばさみ、長束など、お札を折らずに収納できる“薄財布”を追求する動きも顕著に。使い方を決めつけすぎず、「いろいろな使い方が可能」という、ユーザーのための“余白”を残すことが欠かせません。
多様なシーンに“映える”
バッグのプロダクト化
スマートフォンとともに、SNSが普及したことによる変化は?
ツイッター、フェイスブックに続き、インスタグラムの人気が高まりました。2017年の流行語大賞に「インスタ映え」がエントリー。インスタグラムへの投稿にはスマートフォンでの撮影が不可欠なため、スマホケースやスマホポシェットなど、“スマホまわりアイテム”が大きく注目されました。
デイリーな着こなしだけでなく、アウトドア、花火大会など、服というよりもシーン、コミュニティ、環境などに合わせたコーディネートを意識する人が増えていきます。ファッションよりプロダクト、雑貨的な感覚のほうが合わせやすく、写真やSNS投稿で「映える」対象として、プロダクト感覚が浮上したのではないかと思われます。
“プロダクト感覚”について
くわしく教えてください。
ファッションに限らず、ライフスタイルをトータルで自分らしく表現したい。そんな高感度ユーザーの購買意欲を刺激したのが「プロダクトアイテム」。オールインワンでデスクまわりの文房具やコード類などをまとめられる、ガジェット系アイテムも好評。
電車通勤でかさばらず、車移動で使いやすく、フリーアドレスのオフィスでデスクに置いてもサマになる存在感も見逃せません。自立する仕様であれば、スマホスタンド替わりにもなり便利です。
平成プチバブルともに盛り上がった「ITバッグ」ブーム後、バッグのトレンドは長期化。適正価値が求められ、わかりやすい基準となる指針として「プロダクト感覚」が支持されているのかもしれません。
使う人に寄り添うバッグが
ニューノーマルに
2010年代のバッグでほかに大きな変化といえば、どんなことが挙げられますか?
まず、ユーザーの不安や不便を解消する新しい役割が求められていると思います。2018年は大きな豪雨災害や震災被害が相次ぎました。どんな場所でも被害に見舞われる可能性があるなか、服飾雑貨関係でも社会課題の解決を掲げる動きも出てきました。
つくり手の方の避難所経験を基に立ち上げた「レスキューランジェリー」は、水も運べる洗濯バッグとランジェリーとをセットで販売。外から見えないように下着を干せる、被災者の立場に寄り添ったアイテムです。バッグで洗濯するという、斬新な提案に、展示会で拝見したとき、とても驚きました。
災害の増加や気候の変動による
影響もありますか?
近年頻繁に発生するゲリラ豪雨に対応した「防水」も大きなテーマです。水の入らない「止水ファスナー」をあしらい、完全防水のPVCリュックがヒットするなど、レイン対応がファッションに浸透してきました。このほか、業界全体でレザーの防水加工が増えました。
通勤時の混雑した電車、バス、公共交通機関で移動中のシーンで、リュックの持ち方についてのマナーが話題となり、鞄メーカーの「ace(エース)」では、迷惑になりにくいビジネスバッグを発表。「前抱え用のリュック」「足もとにおさまる薄マチブリーフ」など、不便さを解決するテーマに向き合っています。 “困りごと解決”という切り口は、今後も注目されそうです。
このほか、ニューノーマルといえるバッグとは、どんなものでしょうか?
バッグや革小物は、ファッションと連動するトレンドアイテムという位置づけだけでなく、自分の“趣味性”を表現する雑貨感覚、好きなジャンルを応援する“推し活”への対応や、ケアしながら長く楽しむなど、使う人の“らしさ”に寄り添うアイテムであることが求められてきました。
コロナ禍では、「非接触」、「アウトドア・グランピング、バンライフ(車中泊も含む)需要」、おうち時間を彩る「インテリア感覚」、トレンドに左右されない価値としての「アート感覚」といった、新たなライフスタイルへのチューニングも不可欠。
キャッシュレス決済の浸透とレジ袋有料化・エコバッグの利用拡大の影響で、レザーバッグへの再評価も見られます。敢えて手に持つバッグがトータルコーディネートのポイントとなり、ステイホームでは実感できない「ファッションを楽しむ」ことへの再認識につながったり、手に持ったとき、触れたときのレザーの風合い、タッチ感のよさも見直されています。
「バッグはこうあるべき」という既存パターンから脱却する、ウィズコロナ時代に向けた新しいクリエイティブに期待しています。
参考サイト
「@Random by B.A.G.Number」
https://at-random.bagnumber.tokyo/