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エディター&コンサルタントに聞く
「日本の鞄・バッグづくり 現状&近未来展望」

エディター&コンサルタントに聞く「日本の鞄・バッグづくり 現状&近未来展望」

2000年代のバッグのものづくりを、活躍中のバッグメディアのエディター、革製品MDコンサルタントが語る、バッグブランド<激動の平成史>シリーズの派生企画として、1~3で取材ご協力いただいたエキスパートたちが再度登場。

鞄・バッグ業界専門紙「Bagazine(バガジン)」編集長、北林芳武さん、靴、バッグ業界中心のマーケティング&業務サポート会社「アジアリング」取締役社長 高橋悟史さん、バッグを中心に幅広いファッション雑貨の最新トピックを発信するウェブメディア「@Random by B.A.G.Number」編集長 川﨑 智枝さんの3人が皮革&バッグ業界の近未来を鋭く、そしてリアルに語ります。

1 「バッグ業界の人材育成・教育 JLIAおよび業界団体の取り組み」

まずは北林さんにお聞きします。2022年、バッグ業界の環境について、どのように感じていらっしゃいますか?

北林さん: 国内の鞄・バッグ・小物業界を取り巻く環境は、年々厳しい状況に置かれています。しかし、市場では多種多様な鞄・バッグ・小物商品が溢れ、様々な場所や方法でそれらの商品が購入されている。つまり、外資系ブランドや異業種からの参入が増え、さらに、オンライン販売などの利用増加による売り場の縮小が進み、国内の業界関連企業にとっては、競争相手となる分母が増え、販売機会となる分子が減っている状況です。

そのような状況に対して、業界全体で取り組んでいることはありますか?

北林さん: この業界環境を踏まえ、国内の鞄・バッグ・小物業界を代表する日本鞄ハンドバッグ協会では、一般社団法人日本皮革産業連合会(JLIA)の国産皮革・製品広報事業と連携し、助成金を活用しながら継続的に推進していく「鞄ハンドバッグコラボ活動」として、現在、「EXCELLENT・JAPAN展開促進事業プロジェクト」を展開しています。

エクセレントジャパン ハンドバッグの日

このプロジェクトでは、鞄・バッグ・小物に従事する国内企業が、国内外のマーケットで競争力を持てるよう、該当する各企業にとって様々な優位性を持てるような施策を実施し、安心・安全の製品を国内外に広めることを目的としています。

それと同時に、業界全体の意識改革にも力を入れています。作りっぱなし、売りっぱなしではなく、リサイクル可能な素材使いやメンテナンスしやすい製品作りなど、これからは顧客価値を高めた商品提案を目指す方針を示しました。これらを事業のコンセプトに掲げて実現するため、『生産』『ICT』『マーケティング』の3つのプラットフォームを柱とし、業界の川上から川下まで、職人さん・製造メーカー、卸販売、小売のそれぞれが活性化できるよう、具体的な施策に取り組んでいるところです。

業界の取り組みとして、革製品技能試験「鞄・ハンドバッグ・小物技術認定(皮革部門)試験」も注目されているようですね。

北林さん: 一般社団法人 日本皮革産業連合会(JLIA)、と日本鞄ハンドバッグ協会が主催する革製品技能試験「鞄・ハンドバッグ・小物技術認定(皮革部門)試験」は、日本の伝統ある皮革技術に対する社会一般の評価を高め、職人の技術と社会的・経済的地位の向上を図り、皮革産業の未来を担う後継者育成を目的としています。この制度は、天然皮革などを素材とする鞄・ハンドバッグ・小物の製作に従事する人々が持つ技術や知識を、一定の基準によって検定し認定するもの。鞄部門、ハンドバッグ部門、小物部門に分けて、技術基準に基づき1・2・3級の階級で試験を実施し、合格者には協会から認定証が交付されます。2022年3月に行われる試験で11回めを迎え、これまで1級~3級の合格者を多数輩出しています。

革製品技能試験認定証授与式
技術認定証

つくり手の実力が「見える化」する仕組みができたということですよね?

北林さん: そうですね。国内の鞄・ハンドバッグ・小物製品産業にとって一番の基礎となる「ものづくり」。その価値を決めるのが生産者の「技術力・製造技能」です。この技術認定制度によって、生産者の技術・技能力を客観的に位置付けし正当に評価することは、とても有益なことだと思います。基準に挑戦することで生産者自身が実力を知り、さらに高いレベルを目指すモチベーションも生まれる。認定された生産者によって作られた製品にはプレミアムが付き他製品との差別化が図れる。高技術の生産者および彼らを雇用する企業への需要と利益にも繋がるでしょう。そういった企業が増えることで国内産業のレベルが高まり、“メイドインジャパン”というブランド力で海外への販路拡大も見込めます。国内外から評価を受ける産業となれば、業界を目指す人材も増え、優れた技術の継承が可能となります。

今後、進展もあるそうですが?

北林さん: 先ほどお伝えした「EXCELLENT・JAPAN展開促進事業プロジェクト」の3本柱である『生産プラットフォーム』では、現行の技術認定制度の国家資格化を目指し、一般社団法人日本鞄協会と一般社団法人日本バッグ協会とのコラボレーション事業を進め、厚生労働省への技能検定制度(国家資格)申請作業を開始しています。また、若い人たちをはじめ、より多くの方々が業界に参入してもらえるよう、啓蒙や教育など資格認定取得を目指す人材が増えるような活動にも力を入れていくようですので、今後がとても楽しみですね。

人材育成に関するプロジェクトでは一般社団法人 日本皮革産業連合会主催によるコンペティション「ジャパンレザーアワード」も好評ですよね?

北林さん: 2022年で15年めを迎えます。国産の鞣し革などを使用した作品を対象とし、日本国内最大規模となりました。毎年、業界関連企業に所属するプロフェッショナルから、学生までレザーグッズに興味・愛着のあるさまざまなアマチュアの方々まで、数多くの作品が広く全国から応募されています。2021年度は、史上最年少の小学生がエントリーなさって話題になりました。

鞄・ハンドバッグ・小物業界においては、アワードのグランプリ受賞をビジネスの転機として飛躍されたブランドもありますし、自社オリジナル商品の評価・リサーチも期待した出品など、従来業務では得られないチャンス獲得や情報収集としても活用されています。

ジャパンレザーアワード2021

毎年取材なさっておられますが、応募作品のグレードが年々上がっていて、驚きますね。

北林さん: 審査方法や審査員が毎年見直されたり、テーマが変更されたり、進化し続けていることもその理由だと思います。毎年ご応募されている方も楽しみながらエントリーなさっていることを感じられます。一般の方々からの応募作品もなかなか興味深く、素人の領域をはるかに超えた素晴らしい作品に出会うことがあるので、審査会・一般公開会場の取材では仕事を忘れてついつい見とれてしまうこともあります。皮革製品への想いや表現意欲など、作品に宿るパッションは非常に熱いものを感じますね。業界団体としてこういった方々をサポートすることも、業界の裾野を広げる大事な活動だと思います。

ジャパンレザーアワード2021
ジャパンレザーアワード2021
ジャパンレザーアワード2021
ジャパンレザーアワード2021

一般ユーザー対象というと、「レザーソムリエ」も応募者が増えているそうですね?

北林さん: “皮革および革製品について正しい知識を持ってもらい、皮革および革製品を愛用し、楽しみ、使ってもらいたい”という想いから、皮革業界では、2017年より、皮革や革製品について一定の知識を有する「レザーソムリエ」を育成しています。レザーソムリエ資格試験を実施し、そのための「皮革講座」を開設したり公式テキストを用意しています。皮革素材や革製品に興味・愛着を持っている一般の人達から、皮革産業の仕事に従事する業界関係者の方まで、幅広い方々が資格取得を目指しています。

天然素材である皮革についてのより深い知識や、その手入れ方法を教授するだけでなく、皮革業界にいる立場からは当たり前の知識・情報ですが、そもそも皮革は食肉のための副産物であり、資源を有効活用するエコロジーな素材であることを改めて周知することにも役立っています。皮革についての正しい知識・情報を発信する大切な啓蒙活動の役割も担っていると思います。

レザーソムリエ皮革講座 展示
レザーソムリエ皮革講座 講義

コロナ禍では、リアルイベントの開催が難しく、ご苦労もあったのではないでしょうか?

北林さん: ウイルス感染防止の観点から、オンラインによる試験や講座へと転換したことで、逆に全国各地からの講座受講や受験が可能になり、参加申し込みが増えたそうです。なかでも一般の方々の参加が増えていると聞きました。この資格制度をさまざまな形で活用してもらい、皮革素材の理解者でありサポーターの輪が広まれば、皮革産業を支える大きな力になると期待しています。

2 「バッグ関連企業・事業者の事業継承 次世代へのバトン」

続きまして、高橋さんにお聞きします。人材育成によって、技術継承するだけでなく、企業・事業者の事業継承も進んでいるでしょうか?

高橋さん: 他の業界との比較(特に靴業界との比較)となりますが、バッグ関連企業は、バッグ製造から企画、販売まで次世代のモチベーションも非常に高く、上手く継承されているところが多いと感じます。業界によっては、後継者不足が製造、企画、販売すべてにおいて進行しているところもあるので、バッグ関連企業は有望な業界といえます。アパレル業界と比較すれば、国内企画、国内製造の割合が非常に高いことが、業界の原動力となっているといえます。今後は世界に通用するブランドを作りながら、業界で働くモチベーションをより高めていくことがもっと必要でしょう。

コロナ禍で非接触・非対面が求められるなか、販売職に携わる皆さまは大きな影響を受けておられるようですが?

高橋さん: 販売店、小売店の場合は地域によっても捉え方が異なり、地域一番店や個人経営店では人材不足が見られます。これは販売職全体にいえることですが、店頭で接客する仕事はなかなかいい人材が集まらず、事業継承にも大きく影響しているようです。また、次世代ユーザーの「バッグ専門店離れ」も懸念されます。次世代ユーザーに愛されるお店づくりと合わせて、事業継承を進めることがさらに必要となるでしょう。

バッグ関連企業・事業者の事業継承は、今後どのようになっていくでしょうか?

高橋さん: バッグ業界に限ったケースではありませんが、人材の面での事業継承が一番難しい部分といえます。具体的には、小売店経営の場合、親子または親戚間で継承していくケースが多いですが、世代間、価値観の相違などで、なかなか難しいケースがあると聞きます。

もちろん、ケースバイケースなのですが、私がヒアリングしていくなかで上手く継承しているパターンは、次世代にバトンタッチしたら、できるだけ前任者は経営に口出しをしないこと。親子の場合は特に難しいですが、先代の経営者はよきアドバイザーに徹することがベター。

新しい時代の新経営は、新しいやり方でどんどんチャレンジしてもらうほうがよいようです。いずれ、利益をしっかり取ることが事業継承をスムースにさせる近道。あまり難しく考えずに、新しい時代にあった利益確保の追求が、事業継承を上手に行う秘訣となるでしょう。

3 「問題解決型のレザーバッグ・革鞄づくりを目指し、ユーザーの皆さまに寄り添う」

最後に川崎さんにお聞きします。徐々にフィジカルイベントが復活しつつあり、展示会取材も再強化されていると思いますが、2022年の気になる傾向はありますか?

川崎さん: うれしいですよね。私は実際につくり手さんにお話しを伺うことが好きなので、展示会を開催してくださる企業・事業者の皆さまに感謝しかありません。まだまだ過渡期ではありますが、乗り越えていただきたいですね。

気になる傾向としては、「ライトウエイト(軽量)」です。以前から、女性のバッグ選びでは、「軽さ」を重視するユーザーの皆さまが多くいらっしゃいましたが、それだけでなく、アウトドアブームの影響も見られます。トレイルランニングなど、バッグをはじめとしたギアのライトウエイト化が進行。メーカー側の素材開発の流れから、デイリーユースのバッグにも波及しているよう。

一方、エコバッグの役割を兼ねる大ぶりのトートバッグを持つ人も増加。バッグそのものは極力軽くしたいというニーズも顕著です。シープや馬革など素材そのものが牛より軽い革を活用するブランドも増えています。特にピッグスキン(豚革)は、軽量かつ可塑性が高いので、箔押しをはじめとした多彩な加工により、表現のバリエーションも豊富な点も魅力ですね。「JFW JAPAN CREATION 2022」東京都(東京製革業産地振興協議会)ブースでは、東京都立皮革技術センターがピッグスキンの新製品を発表し、とても好評でした。

ピッグスキンの製品
ピッグスキンの製品

なるほど。ユーザーの困りごとを解消するプロダクトは人気ですね。豚の祖先種といわれる猪はいかがでしょう。ジビエ革も定着し支持が広がっているようですが?

川崎さん: そうですね。農林業への被害軽減のため、有害捕獲される猪や鹿などの利活用が定着しつつあります。国内有数の皮革産地、兵庫・姫路のタンナー「オーソリティ」では、ワイルドかつ繊細な仕上げによる猪革が好評です。ただし、弾跡やキズなども多いので、製品化にあたってはユーザーの皆さまの理解が深まってくださることに期待したいですね。

猪革の製品

「サステナブル」の観点から、社会課題解決型のものづくりは、ますます重要ですよね。このほかの事例はありますか?

川崎さん: この革鞄特集でもご紹介した「D級レザー」の利活用も注目しています。ファッションビジネスのプロを育てる国際ファッション専門職大学と、革のプロフェッショナルが集う富田興業株式会社が産学連携プロジェクトとして始動した「LEZZA RESILIENCE PROJECT」では、皮革産業における資源ロスの問題を解決することを目的し、ビジネスモデルをデザイン。第一弾として、D級レザーをテーマに展開しています。

キズなどがあり、グレードの評価が低いため、製品づくりに使用することが難しいとされてきたデットストックを有効に活用。つくり手の負担になっていたD級レザーに光を当て、学生×社会人混成チームで製品化プランを練り上げました。

2021年11月に皮革業界のエキスパートやビジネスパーソンを審査員に招き、本格的なプレゼンテーションを実施。斬新なアイディアが生まれ、2021年12月の「東京レザーフェア」会場につづき、2022年1月、富田興業本社ショールームにて展示会を開催。財布やバッグなどを試作し話題に。「SDGs」「サステナブル」というテーマは、不可欠な要素となりつつあります。

D級レザーを活用した製品

食肉の副産物を利活用した牛革や豚革などはもちろん、アニマルウェルフェア(動物愛護)の観点からも、レザーのものづくりについてユーザーの皆さまに正しく認知していただき、レザーバッグ、革鞄のあるライフスタイルをもっと楽しんでいただきたいですね。

参考サイト

Bagazine bit

https://www.bagzn.com/

「EXCELLENT・JAPAN 展開促進事業プロジェクト」事業の概要と展望

https://www.bagzn.com/excellent-japan-1/

革製品技能試験

https://license.jlia.or.jp/

レザーソムリエ

https://www.leather-sommelier.jp/

アジアリング

http://asiaring.jp/asiaring.html

@Random by B.A.G.Number

https://at-random.bagnumber.tokyo/

ジャパンレザーアワード

https://award.jlia.or.jp/

東京都立皮革技術センター

https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/

レザーの社会科見学 
エキスパートに聞いてみた
東京都立皮革技術センター

https://timeandeffort.jlia.or.jp/interview/03_1.html