Interview
レザーの社会科見学 エキスパートに聞いてみた
東京都立皮革技術センター
「レザーの社会科見学 エキスパートに聞いてみた」第三回は、東京都立皮革技術センター 所長・博士(農学)、東京農工大学農学部客員教授 吉村圭司さんにインタビュー。
東京スカイツリーのお膝もと、墨田エリアに昭和58年、開所した同センターは、東京の皮革産業の技術、品質を支える重要拠点。メイドインジャパンのムーブメントの高まりとともに注目を集めるピッグスキンについて、お話しを伺いました。
1ピッグスキンの特長は?
ピッグスキンは現在利用されている皮革のなかで唯一全量を自給できる国内素材です。
軽さと薄さ、表面が摩擦に強いのが特長。
牛と比較しても組織が密で銀面(表面)の凹凸が大きく3つ1組の毛穴が独特の風合いを醸し出し、通気性にも優れています。
2墨田区でつくられているのはなぜですか?
東京23区内にありながらも、隅田川、荒川に挟まれ、旧中川、北十間川など水辺に恵まれた墨田区は、「川の手」として全国水の郷百選にも選ばれている自然豊かな土地柄。
江戸時代から商業地、住宅地として栄える一方、近代軽工業が発祥した地域でもあります。
瓦、染色から始まり、明治以降は、革、メリヤスほか、さまざまな産業が発達しました。革づくりには、広い土地と大量の水、多くの人が必要。その場所として墨田区が選ばれたのも必然といえるでしょう。
これまで培われた技術が現代に受け継がれ、しっかりと息づいています。
3日本の食文化との関連性は?
レザーは食肉を加工する際に生じた皮、副産物を無駄なく利活用してつくられます。
東京は日本全国でつくられる革と革製品のおよそ30%を製品出荷している国内最大の産地です。特徴は豚革の取り扱いが多いこと。
関西など、そのほかの産地では牛革が中心。東京のように豚革のタンナーが集積しているエリアは世界的に見ても珍しいのです。
理由として考えられるのが、食文化。関東では豚肉、関西では牛肉が多く食べられているため、生産量に違いがあらわれているのです。海外では、豚肉を皮ごと処理したり食べたりすることが多いのも一因でしょう。
食文化と密接な関係があるのも、食肉の副産物であるがゆえなのです。
4ピッグスキンはエコといわれますが、本当ですか?
ピッグスキンは国内で自給自足できる数少ない素材です。
皮だけなく、副産物の脂肪は油脂に。惣菜の揚げ油に使用された後、肥料、飼料、石鹸、インク、ボイラー燃料へと再利用されます。
こうした循環型のシステムは昔から機能しています。洗剤、石鹸などの大手メーカーが墨田区にあるのも、そんな歴史的背景によるものです。
このほか、コラーゲンなども精製されるなど、生命の証を無駄なく利活用し、私たちの暮らしのなかに取り入れられています。
現在は排水処理の徹底、有害化学物質の不使用をはじめ、環境に優しい革作りを目指しています。
5ピッグスキンのものづくりの最新傾向は?
ピッグスキンは加工がしやすく、染色、仕上げ、型押し、インクジェットプリント、箔押し、転写フイルムほか多彩な表現が可能です。各事業者の切磋琢磨により、技術力が年々進化しています。メスカッター、塩縮加工、さらにそれらのハイブリッドなど、新しい表現も続々。
近年では、ウォッシャブル加工、撥水加工が好評です。消費者のニーズに応える製品開発がなされ、人気を集めています。当センターでも品質検査を繰り返し行い、いまでは海外の厳格な基準もクリアするなど、グローバルに対応できる品質となりました。
今後は、通気性、放熱性、摩擦に強い特性を生かしたスマートフォン、デジタルデバイス関連アイテムにも期待が寄せられているようです。
東京都立皮革技術センター|東京都墨田区東墨田三丁目3番14号
TEL:03-3616-1671
www.hikaku.metro.tokyo.jp
■東京都立皮革技術センター
東京都の伝統的地場産業である皮革関連産業の技術向上を目的に開所され、皮革に関する試験(強度の測定、堅ろう度の検査ほか)、研究、技術支援・相談などを行っています。革づくりに必要な機器の利用も可能です。
皮革関連産業で働く人たちを対象とした講義と実習による研修、講習会、施設公開・見学も実施。ご希望のかたは、公式サイトで告知されますので、更新状況をご確認ください。施設内に皮革および皮革製品のショールームがあり、近隣の事業者がつくった皮革素材、皮革製品の一部を展示しています。一般ユーザーも閲覧することができますよ。
2020年に行われる東京オリンピックに向けて、東京らしいおもてなし、おみやげ品が準備されていますが、ピッグスキン関連アイテムもそのひとつですね。次世代を担う後継者、若きつくり手たちが生産現場に加わり、伝承された技術をベースにしながらも、フレッシュな発想で革新し続けているという現状をお聞きして、うれしくなりました。
洗濯できてデニムのように育つ革とそのエコバッグ(ティグレ/レザリア)や、撥水スエードのビーチサンダル(三恵産業/チェトラ)といったユニークな製品が開発され、話題を集めているそうです。
循環型のものづくりで生まれるピッグスキンは、環境にやさしく、ソーシャル性が重視される今の時代にぴったり。キャッシュレス決済システムとスマートフォンの進化によって、変わり続けるライフスタイルにマッチした革小物、ファッション雑貨が東京でつくられ、世界へ発信される・・・そんな近未来を想像するとワクワクします。身近で可能性にあふれるピッグスキンの魅力に触れ、ぜひ、暮らしに取り入れてください!