VideoジャパンレザーVOICE:放送後記
放送後記
4月はお休みをいただきましたが、「ジャパンレザーVOICE(#レザボイ)」がついに再開。セカンドシーズンの始動となります。5月17日、第十一回を放送いたしました。当日は各地で猛暑日となるなど、季節外れの記録的な暑さ。2023年度のスタートは、記憶に残る日となりました。放送内容も、皆さまの記憶に残りますように。ご視聴くださった皆さま、本当にありがとうございました。
レギュラーコーナーは「ジャパンレザー 旬暦」革製品紹介からスタート。今回は特別編で作品紹介となりました。2023年2月~3月に行われた、靴学校(東京、大阪)の卒業展示のレポートをお届け。
東京都立城東職業能力開発センター 台東分校 製くつ科、文化服装学院シューズデザイン科、専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ シューズコース、エスペランサ靴学院の各校に独自取材。大阪には取材に伺えず、エスペランサ靴学校は写真を提供していただきました。
Z世代を中心とした若きつくり手の皆さまの、学び舎での集大成をオンラインでお披露目。年度末に行われたこともあり、スケジュールが合わず、来場できなかった皆さまにもご覧いただけるとうれしいです。
東京都立職業能力開発センターは、就職・キャリアアップを目指す方が、就職に向けて必要な知識・技能を学んでいただくための職業訓練を実施しています。都内各地域に13校の訓練施設があり、製くつ科の他にも機械、電気、介護、アパレルパタンナーなど幅広い科目があります。
台東分校は日本で唯一、靴づくりの公共職業訓練施設です。靴・はきものに関する試験及び技術相談などを行う、東京都立皮革技術センター 台東支所と同じ建物にあります。場所は東武スカイツリーライン浅草駅から近く、革の街・靴の街として知られる浅草のランドマークのひとつともいえます。
3月22日に卒業制作展を開催し、製くつ科51期生21名が制作した111足を展示しました。教室を会場にしていて臨場感があるイベントです。卒業生の皆さまが自分の作品を披露し、家族友人知人を招いて作品を紹介なさっていました。こういう状況にも戻ってほんとうによかったなと感じるひとときでした。
職業訓練校ということもあり、技術の習得を軸にした作品や基本に忠実である作風が多く見受けられます。なかには、感度が高く、すでにクリエイターズブランドのような佇まいの作品や個性的な作品などもあり、見応えいっぱい!
会場で来場者を対象に行われたアンケートで上位の作品を中心にお借りしてスタジオでご紹介。画像は公式写真をお借りしました。
来場者アンケート『履いてみたいと思った靴』1位
正面から見たアッパーデザインと、踵からヒールにかけてのサイドから見たラインと表情が大きく違っていて、そのイメージのギャップが、チャーミングな作品です。クラシカルだけれどモダンな印象です。ラインがとても美しいので履くとテンションが上がりそうですね。
来場者アンケート『アイデアが良いと思った靴』1位
クラスメートから残革の床革を譲り受け、ヒモ状にして基布に刺しゅうしたものをアッパーに配しています。モコモコとした質感とあえて無造作に仕上げたバランスが絶妙です。会場の写真を拝見しているなかでも目をひいた一足でした。デザイン性はもちろんですが、「SDGs」の観点からも秀逸です。
来場者アンケート『デザインが良いと思った靴』1位
ウクライナ童話「てぶくろ」をテーマにし、「雪が溶けて春になるころ、みんなでまた会いましょう。目印にお花を持って」七匹の動物の分七種類の花が靴に咲いています。お花はウクライナの民族衣装をモチーフにしているそう。若い世代の方がこういうテーマでものづくりして、支持されているのがうれしいですね。問題が雪解けすることへの祈り、平和・・・美しいデザインだからこそ、多くのユーザーの皆さまにメッセージが届くと思います。
来場者アンケート『デザインが良いと思った靴』2位
妖精がキラキラ☆と、粉を振りまきながら飛んでいるように軽やかなゴージャスシューズ。蝶のパーツもハンドメイドだそうです。舞台映えしそうな作品ですね。ライトが当たったときの輝きを想像するとワクワクします。女の子が夢見る靴を具現化していて最高です!
来場者アンケート『デザインが良いと思った靴』3位
市川猿之助さんの家紋(替紋)をモチーフに、歌舞伎への愛を表現。「推し活」を感じる靴ですね。現物をこうして拝見すると、つくり手の想いや情熱をより一層感じますね。浅草ではステージ用のシューズ、ヒストリカルシューズを手がけているつくり手の皆さまもいらっしゃいます。演劇やミュージカル公演が通常に戻ったいま、エンタテイメント文化を支えているつくり手がいることを改めて再認識していただきたいです。
以上、作品ピックアップでした。同校のプライバシーポリシーに準じ、作者個人名の表記は控えさせていただきました。
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【School MEMO】
東京都立城東職業能力開発センター 台東分校 製くつ科公式ツイッターアカウントでは、卒業制作作品の準備過程も掲載。スキルアップ講習など最新の情報も発信しています。
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/vsdc/taitou/index.html
文化服装学院は、創立100周年迎えた歴史ある専門学校です。日本で唯一「世界のファッションスクールランキング2022」トップ10にランクイン。セントマーチンズにパーソンズ……世界的なファッションスクールとも肩を並べて、日本はもちろん、アジアの中で「No.1」といわれ、海外からの留学生が多いのも特長です。コロナ禍ということもあり、2022年度卒業生は日本国内から進学した方が多かったようです。
シューズデザイン科では、商品企画からデザイン、設計・製作まで、シューズデザインの専門知識と技術を高めます。企業コラボレーションや、靴工場、資材メーカーなどでの豊富な校外授業を通じ、デザインや制作に関するスキルとともに、プロ意識を育みます。
卒業制作展示は2月23日~27日、文化服装学院校内で行われました。会場は高層階のフロアにあり、窓が大きく開放的なスペースでした。ハイヒールや海外からの留学生の作品も。おひとりおひとりの個性が光っていますね。今年度は日本国内から進学した学生さんが多く、通常はもっと国際色豊かです。個性を尊重したご指導による自由なものづくりが素晴らしいです。
高木麗亜さんによる「初心」では、ダブルモンクストラップシューズを発表。「おじ靴(おじさんの靴)」ブームもありましたし、モードのトレンドも、ベーシックやテーラードをベースにモダナイズしたものが多いこともあり、時代の空気感をとらえていますね。
卒業制作展示。一番右が
高木麗亜さんによる「初心」
近年は正統派、トラッドを意識したシューズがトレンドとなっているなか、あえてモード感を強く打ち出した、文化服装学院ならではの作品たちに目を奪われました。それぞれがご自身の世界観をしっかりと表現なさっていて、今後クリエイターとして活躍いただきたいと思います。
ところどころに手縫いのステッチを入れ、テーマである「コネクト」を表現した作品群。「つなぐ」「結びつける」などの意味があり、「革と革同士をつなげる」のはもちろん、「靴を通して、人と人がつながっていけたら」との想いが込められています。
放送でご紹介したのは、ファスナー使いが大胆な一足。ご本人はクールななかに「ファッションが好きだ」という情熱を全身で表現なさっていました。気骨が感じられるクリエイティブでコアなファンを獲得し支持を広げそう。ファッションとしての靴を発信し、世界とつながっていただきたいです。
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【School MEMO】
文化服装学院では月一回の学校説明会、土曜授業、ファッションサマーセミナーなど、受験生向けイベントも充実しています。
https://www.bunka-fc.ac.jp/course/fashionkougeisenmon-katei/shoesdesign-ka/
ジュエリー分野にしぼった日本初の学校法人として認可された専門学校です。以来、ウォッチ、シューズ、バッグコースを開設し、各分野に特化した、ものづくりの技術を育む学校として知られています。
シューズ・バッグコースは、シューズ・バッグのデザイン、制作技術やマーケティングなど、プロのクリエイターに必要なスキルを3年間で体系的に学びます。企業とのコラボレーション授業や販売会企画など、実践から学べるプログラムも豊富です。
卒業制作展と学園祭が融合したイベント「卒祭 2023」は3月10日~13日に行われました。各コースの卒業制作作品の展示のほか、企業コラボレーションの成果発表、ヴィンテージウォッチ販売、宝石研磨のデモンストレーションと作品販売、すし和食有志による軽食販売、学生有志によるクリエーターズマーケットなど盛りだくさんでした。
会場で撮影した画像とともにレザーを使用した作品をピックアップしてご紹介。
幼い頃の体験や経験は人の土台を作ります。子どもたちがデザインした靴を実際に制作することで成功体験や自己肯定感を高めることができると考え、子どもたちのデザイン画をベースにつくるという新しい試み。
武蔵村山の『ものづくりカフェWORK+WORK』さんとフリースクール『まなクロBASE』さん、工藤さんの友人の協力でデザイン画を集めました。デザイン画のイメージを壊さないよう、安全性などを考慮しつつ作品を仕上げています。見たこともない夢のような靴たちにワクワクします。
プラスチックゴミの中でも最も多いゴミ、タバコのフィルターを「SDGs」の観点からそのフィルターを洗浄・分解・再利用し、新たな素材として靴を制作。リサイクルに加え、ゴミとなるフィルターを用いたことで、喫煙者へのポイ捨て注意を呼びかけます。
喫煙者が捨てた吸い殻(約120本)を別の形に生まれ変わらせるとは、どれだけ手間暇をかけたのだろう・・・そのパワフルな創作意欲に頭が下がります。
ー自身への靴ー自身に作り履く事で、失敗と改善を身体で覚えていく。「分からない」がたくさんだからこそ、一から基礎を見直し、目の前の一歩を積み重ねていく。「作る時も使う時も気持ちいい」を大切に。そんな思いでつくられた一足。不特定の誰かでなく、あなたの履きたいをつくるための、はじまりの一歩・・・そんな想いが込められています。
国内の肥育農家で牛のお世話をするという体験をし、生命の証である皮革をあますことなく使用するというプロセスを含め、ごくごく自然にエシカルなものづくりを選択しているのは、Z世代らしいクリエイティブですね。
実在しないもののイミテーションというものにおもしろさを感じて作りはじめた作品。タコの革を模倣しクラシカルなデザインに乗せることで、あらゆるものに手を伸ばし、さまざまなものを消費した近代をイメージしているそう。過去を否定することなく、今私たちに必要だから考える「SDGs」になって欲しいという考えが込められています。
タコをモチーフにするというと、浮世絵からインスパイアされた和を感じる作品という固定概念を爽やかに刷新してくれる、まったく違うアプローチが斬新ですね。
以上、作品写真、会場の写真を見ていただきましたが、作品と連動した写真、ヴィジュアルも展示しています。トータルでご自身のクリエイティブを表現していて、さらに、おひとりおひとり、コンセプトの深掘りが凄くて現代アートのようでした。
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【School MEMO】
専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジは、2022年度よりシューズ、バッグコースが統合。シューズだけでなく、バッグも学ぶことができるようになりました。進路を選ぶ際、迷ってしまいがちですので、両方学べるというのは、とてもいいですね。
実際学んでみないと自分に合っているかどうかわかりませんから、学ぶなかで自分の適性を見つけていくことができるのはいいですね。近年、シューズクリエイターの皆さまのなかには、靴だけでなく、財布や革小物を展開する事例も増えているので、いろいろ学べると後で役立つと思います。
受験生向けのイベントをはじめ、専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジについては公式ウェブサイトをご覧ください。
https://www.hikohiko.jp/shoe_and_bag_maker