ブックガイド
高田喜佐の本
高田喜佐(1941~2006)を知っていますか。日本で初めての靴デザイナーとしてファッションやメディアの世界からも注目を集め、「KISSA」は時代を象徴するブランドだった。エッセイストとしても才能を発揮、多くの本を著している。その自由で一途で乙女チックなキャラクターの一端を、読んで味わいたい。
1:ShoeShoe PARADISE
リブロポート発行(1991年)
80年代を中心としたコレクションから選んだ145点の作品写真集。時代の名品の数々が紹介されている。同タイトルの展示会も開催されたが、現在、それらの靴の多くは「KISSA」コレクションとして神戸ファッション美術館に収蔵されている。
「靴は人が二本の足で立ったときに生まれた、大地にいちばん近い私たちの大切な道具です。ですが、「道具」とだけ言い切れない何かがこの小さな容れものに秘められている気がしてなりません。ファンタジックでもあり、セクシャルでもあるオブジェとしての側面も靴は持ち合わせています。」(巻頭文)
2:私の靴物語
主婦と生活社(1985年)
初めての著作。多摩美の女子大生が男社会・職人世界に飛び込み靴デザイナーの道を歩み始めた頃の話,靴に対するこだわり、母のこと、旅のこと、日々の出来事──初々しく楽しさいっぱいの自伝的エッセイ。随所に添えられた自作のイラストレーションがメルヘンチックで可愛らしい。
「(70年代の初め)共同で借りた仕事場で、喜佐さんの仕事ぶりを見ていました。納得いくまでつめていくやり方が積み重ねられて、今の喜佐さんがあるんだろうと思います。」(大橋歩・推薦文)
3:ジャズマンは黒い靴
マガジンハウス(1988年)
雑誌「エル・ジャポン」に連載されたエッセイ25編を自作イラストレーションと共にまとめた一冊。靴をモチーフにした映画、音楽、物語。そして、自身の靴づくりやファッションについての楽しいエピソードの数々を通じて、“DCファッションの黄金時代”でもあった80年代の躍動感が生き生きと伝わってくる。
「靴に対する私の考えが大きく変わったのは一九七三年からだった。―――はき心地の良い靴と夢のある靴との間を彷徨い悩みながら、一年が過ぎ、ある日、この二つが私の中で一つに溶け合っていったのだった。」(本文より)
4:素足が好き
大和書房(1991年)
昭和から平成へと時代が移り変わる時期に、ファッション誌などに発表したエッセイを編集した一冊。最愛の母(詩人・高田敏子)を亡くし、仕事(会社)環境を変え、新たなお店をつくり、長い海外の旅をするなど公私ともに転換期に書かれた文章は、ちょっと大人の佇まいを感じさせる。出版社の大和書房は、高田敏子の詩集や随筆集を出版している。
「この夏、母から贈り物をもらった。天上の母から贈られた、素晴らしい贈り物だった。それは海のそばの一軒家。戦後間もなく建てられた、木造の古びた平屋なのだ。昔のままの、質素な、懐かしい日本の家だ。」(本文より)
5:大地にKISSを
文化出版局(1994年)
前半は1963年の就職・靴デザイナーとしての出発から1993年までの足跡を、時代時代の靴になぞらえて辿るエッセイ。後半は様々な靴履物にまつわるエピソードと共に、時代と人と自然とのかかわりなどに思いを巡らすエッセイ。文章の軽やかさに、人生やデザイナーとしてのキャリアの重みが加わり、味わい深い作品となっている。
「お洒落に夢中だった20代から30代。シンプルなライフスタイルを求めるようになった40代。そして、5年前、週末を海のそばで過ごすようになってからの、自然とのかかわり。大地と人を結ぶ靴が、どんなに大切な使命を持っているか、またどんなに素晴らしいものかを改めて感じている。」(あとがき)
6:太陽と靴と風と
河出書房新社(1995年)
編上げブーツ、ローファー、エスパドリーユ、ミュール、Tストラップシューズ、チャイナシューズ、ピンヒール──様々な靴の商品知識や歴史エピソードなどを、自己の思い出と共に綴った喜佐版・靴のカルチャー事典。取り上げられている靴種は29点。もっともっと続編を書いてほしかった。
「靴って面白い。そして、とても大切。若い頃の私は、靴をおしゃれの主役にしたいと考えていた。靴の存在価値を高め、自己主張をさせたかった。それが、月日がたち、いつの頃からか靴は脇役と考えるようになった。それも、名脇役でありたいと。」(まえがき)
7:靴を探しに
筑摩書房(1999年)
第1章は、靴デザイナーという仕事を通して日々思うこと、仲間・知人・職人との交流にまつわる靴の話。第2章は、プライベートなひと時と家族との思い出。第3章は、靴の自分史と題された誕生から今日までのマイ・シューズライフをつづる3部構成になっているエッセイ集。
「二十一世紀を目の前にして、どんな靴を履きたいか考える。それは、何よりも快適で、なおかつ、その時代の匂いを感じるおしゃれな靴である。そして、ローファーと駒下駄を格好良く履きこなす、素敵なおばあさんになりたいと願っている。」(あとがき)
8:裸足の旅は終らない/
十二色のメッセージ
学習研究社(1999年)
表裏両面から読み進めることができる構成のお洒落なカラーイラスト付きエッセイ集。裸足の旅――は、横書きで絵日記風にまとめられた自分史クロニクル。添えられた文章は、どれも短い。それだけに詩のような味わいがある。十二色――は喜佐の歳時記という感じで、1年12か月それぞれの季節に合った暮らしの中の楽しみを綴っている。
「仕事場で誰もいないと、つい私は靴を脱いで裸足になってしまう。それは幼い頃、台湾で、いつも裸足で遊んでいたからだろう。サラサラと気持ちよかった土の感触が、今も私の足の裏に刻まれている。」(本文より)
9:素足が好き
ちくま文庫(2000年)
裸足好きの靴デザイナー、高田喜佐の人生の転機に書かれたエッセイ集の文庫化。自分史、大橋歩などの友人とのエピソード、母の思い出、青山や逗子の日々の暮らし、ファッションの話等々、読み返すたびに「自分らしく生きたい」と常にひたむきだった姿が伝わってくる。
「親しく付き合ってみて知る喜佐さんは、自然が好き、人間が好き、仕事が好き、愉しみごとが好き、つまり人生が大好き、靴のデザイナーとして、経営者としての忙しい日常の中でよくもまあと感心するのだが、和服を着、歌舞伎に駆けつけ、和食を愉しむ。──そんな喜佐さんの人生観を一言でいうのがズバリ本書の題名『素足が好き』だろう。」(高橋睦郎・解説文)
10:暮らしに生かす江戸の粋
集英社be文庫(2003年)
江戸の香りが残る下町生まれの父母に育てられ、靴を仕事にする一方で、下駄、着物、日本酒、ゆかた、和食、和の小物が大好きだった高田喜佐が伝統と職人芸に支えられた江戸時代から続く和の店をガイドし、それぞれが扱う商品や料理を愉しむポイントを紹介する一冊。写真やショップ紹介も添えられている。
「さまざまな四季の行事を尊び、手間を惜しまず、物を大切にしたかつての日本の暮らし。下駄と靴が玄関に一緒に並んでいたのどかな暮らしを、私は素晴らしいと思っています。便利で豊かになったぶん、失ってきたものの大きさをひしひしと感じながら、私たちが育んできた日本の文化をもう一度、見直したいと思うのです。」(まえがき)
そのほか、こんな本も ──
寒月の下に
架田仁緒著
河出書房新社発行(2011年)
キサ事務所の運営を引き継いだ弟、高田邦雄(た・カダ、く・ニオ)の処女詩集
ぺらぺら
高田邦雄著
花神社発行(2015年)
母・敏子の死後1989年から始めた詩作に、新たな覚悟が加わった感の第二詩集
弱虫革命
高田邦雄著
土曜美術社出版販売発行(2018年)
穏やかな反骨精神と下町人間の含羞が社会の矛盾を衝く、遅咲きの詩人の第三作品集
高田敏子詩集(新・日本現代史文庫)
土曜美術社出版販売発行
(2005年)
お母さん詩人、主婦詩人として高名だった高田喜佐の母、敏子の代表作が納められた詩集
高田敏子(日本語を味わう名詩入門)
あすなろ書房発行(2012年)
平易な言葉で子供の日常や気持ち、日々の暮らしを詩として表現した美しい言葉の小箱
母の手~詩人・高田敏子との日々
久冨純江著
光芒社発行(2000年)
料理教室を主宰し、詩作も行っている高田敏子の長女、喜佐の姉がつづった母の思い出
平凡パンチ・大橋歩表紙絵集
マガジンハウス発行(1983年)
高田喜佐と共同事務所を持っていたこともある友人、大橋歩の時代を創ったイラスト集
大橋歩のファッションブック
文化出版局発行(1985年)
喜佐が靴デザイナーとして活躍した頃、大橋歩はファッションエッセイで人気を集めた
原由美子のおしゃれ上手
新潮文庫(1990年)
スタイリストの草分け原由美子は喜佐と同時代にファッション誌で活躍したレジェンド
原由美子の仕事1970→
ブックマン社発行(2012年)
高田喜佐や大橋歩らと日本のファッションと雑誌の黄金時代をリードした40年間の軌跡