靴歴史エピソード  - 人と靴と出来事と -

靴歴史エピソード 人と靴と出来事と 国際競争・新創成期/1991~2020年

< 国際競争・新創成期/1991~2020年 > 編

昭和から平成へ、そして21世紀へ。──バブル経済の崩壊、阪神淡路大震災、アメリカ同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災、そして新型コロナ禍と、時代は揺れ動く。靴産業も国際化やデジタル化、それに伴うマーケット変化に対応して、日本独自の靴の開発と産業システムの再構築が求められる中、2020年に産業創設150年を迎えた。

靴歴史エピソード㊽
阪神淡路大震災

阪神淡路大震災
阪神淡路大震災

上図:震災直後の産地・長田の惨状
下図:復興・活性化の拠点としてつくられた
シューズプラザと「神戸シューズ」ブランド

1995(平成7)年1月17日、阪神淡路大震災がケミカルシューズやカジュアルシューズの一大産地・神戸を襲う。長田地区を中心に広がる靴メーカーは壊滅状態になり、早急な復興の目途も立たず産地は弱体化する。やがて2000年以降、ファストファッションブームが起こり、中国や東南アジアなどからの安価な輸入靴が大量に押し寄せ、さらに苦境に陥る。震災前に226社あった日本ケミカルシューズ工業組合加盟メーカーは80社台にまで落ち込んでしまう。

その危機を乗り越えるために打ち出した方策の一つが、産地ブランド「神戸シューズ」の立ち上げと発信。2007年より、数社のメーカーと組合が協働し、商品開発・販売・PRなどを行ない、百貨店でのポップアップ、公式通販サイトの開設など業界初の地域団体ブランドとして着実に成果を上げている。

靴歴史エピソード㊾
靴学校・靴教室の台頭
靴学校・靴教室の台頭
靴学校・靴教室の台頭

上図:文化服装学園の文化祭展示
下図:関西の若手靴職人による合同展
(金沢21世紀美術館、2019年)

ポストバブルの時代変化、デジタル化による価値観・生活スタイルの変化、そして靴産業の変化に並行して全国各地に広がったのが靴学校・靴教室。その数、150~200校レベルにまで達した。そして、“靴の平成世代”とも呼ぶべき手づくり靴製作者や趣味の靴づくりを楽しむ主婦やサラリーマンも登場する。ネットを活用しつつ、都市や仕事のストレスから逃れ、従来からの常識にとらわれない生き方、価値観、仕事観で靴づくり、モノづくりを行う人々だ。靴の先進国ともいえる欧米諸国にも見られない独自の現象であり、そんな中から、世界で活躍する次世代靴職人も生まれ、ネットを活用した個人シューメーカーの連携も世界に広がっている。近年の靴磨きブームとも重なる日本ならではの靴文化が生まれつつあるようだ。

靴歴史エピソード㊿
すすむ国際化・デジタル化
すすむ国際化・デジタル化

ネットを活用し、国際舞台で活躍の時代に

2000年以降、インターネットが社会・仕事・生活に大変革をもたらす。SNSを駆使した新たなファッションやカルチャームーブメントが生まれ、靴分野でも、美脚ブーツ、ムートンブーツ、レザースニーカーといったヒット商品もネット情報の拡散がキーポイントとなり、ECサイトからの販売も拡大している。

同時に国際化もすすむ。高級ブランドを含む消費を支えるのは海外観光客、特に中国観光客の爆買い。靴分野でも、2012年には輸入革靴が3000万足を突破し、その後も増え続けている。サプライチェーンの構築も試行錯誤しつつ国際化の流れは止まらない。

靴歴史エピソード51
才能は世界に羽ばたく
才能は世界に羽ばたく
才能は世界に羽ばたく

上図:アーテストとして幅広い活動を行う舘鼻則孝
下図:国際的な活動を続ける三澤則行

2005年、靴デザイナーの三原康裕がメンズのファッションデザイナーとしてミラノコレクションに参加。以後、三原はレディスにも進出、ミラノやパリコレを舞台に活躍を続けている。10年には舘鼻則孝が東京藝大の卒業作品として高下駄をモチーフとしたヒールレスシューズを発表。同時にレディガガの専属靴デザイナーとしてもデビューし話題を集める。以後、舘鼻は世界的アーティストとして幅広い活動を行っている。同じ10年には靴職人の三澤則行がドイツで開催された国際製靴コンテストで金メダルを獲得。以後、三澤はカンヌ映画祭でコレクションを発表したり、ニューヨークなどで個展を開き、世界の映画スターや監督などを顧客に持つ。また、近年は靴をモチーフとしたアート作品を発表するなど、世界を舞台に異色の活動を行っている。他にも、国際的な活動を行う日本人の靴職人、クリエイターは数多く、今後の活躍が期待される。

靴歴史エピソード52
日本独自の靴づくり
日本独自の靴づくり

日本ならではの体制、技術で
生産から販売まで行うi/288

2011年、全日本革靴工業協同組合連合会(全靴協連)による「足入れの良いパンプスプロジェクト」がスタートする。厳しさを増す国際競争と少子高齢化の国内市場に対応し、日本独自の技術と生産体制によって新たな革靴を開発する事業で、足型の計測データの集積からスタートし、靴型や中底、パーツなどを開発し、「i/288」のブランドで販売も手掛ける。そして製造プロセスのガイドラインを策定し、研修施設や販売ネットワークも構築してきた。

15年からは、傘下のメーカー、さらには個人事業者も製造ノウハウ・靴型やパーツの使用・販売やPRのアシストも受けられる認証事業にまで発展、進化している。ショップ展開も増え、従来にはなかった上質な靴とシューズライフの提案として注目されている。

靴歴史エピソード53
靴磨き新時代
靴磨き新時代

靴磨き界のカリスマ・長谷川裕也。
靴磨きイベント、本の出版などが相次ぐ

2017年、ロンドンで開催された第1回靴磨き世界大会で長谷川裕也が優勝、2010年ぐらいから徐々に盛り上がっていたシューシャイニングが一気にブーム化する。バーカウンター形式の洒落た店が各地に出来、様々な靴磨きイベントが開催され、靴磨き愛好者のオフ会、そして靴磨きチャンピオンを決める国内大会が行われるなど、その広がりは2000年代の靴教室・靴づくりブームをしのいでいる。革靴の魅力と手入れすることによって新たな価値感が得られるという創造性が、男女を問わず若い世代を引き付けているようだ。日本独自の現象、そして、業界発信ではなく鋭敏な時代感覚の消費者(プロ的コンシューマー)による広がりであることに注目したい。

靴歴史エピソード54
靴産業150年
靴産業150年

新しい産業の在り方を築く
第一歩となった“日本の靴150年”

2020年は、日本に靴産業が創設されて150年に当たる年。様々なイベントが企画されたり、新たなビジネス展開も計画されていた。が、新型コロナウイルス禍で大半が中止・延期・規模縮小。日欧EPA発効によるイタリアなどとの貿易関係の再構築、急速に進むネット化への対応なども含め、ウイズコロナ時代のニュースタンダードが世界的に求められる中、根本から産業の在り方、構造を変えていく“新創成期”のスタートの年となった。

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